愛を教えて その6

「我愛羅、あの女と付き合うのはやめろ」

急に部屋に入ってきたかと思えば、そのようなことを言い出したテマリを、我愛羅は軽く睨んだ。

「……オレの勝手だ」

「そういう問題じゃない。あの女が妙に気にかかったから、調べさせたんだ。そうしたら……」

テマリは全てを言い終える前に口を閉じた。
我愛羅が恐ろしい形相でテマリを睨んでいたからである。

「誰が調べろと言った?余計なことをするな、殺すぞ」

「………」

テマリは悔しそうな顔をしたあと、踵を返し、言った。

「あの女……自分の母親を殺し、父親までも殺しかけている。そのうち、お前にも牙をむくぞ」

それだけ言うと、テマリは逃げるようにして去っていった。

「………」

我愛羅はそれを聞いて目を見開いた。
それに写るモノは、「怒り」ただそれだけだった。




はいつも通りの時間に、部屋へやってきた。
仏頂面でうつむいている我愛羅を目にして首をかしげる。

「どうしたんですか?」

様子がおかしい、と言うことは分かり切っている。
でも、それだけではないはずだ。
だって、この部屋の空気には、確かに殺気がこもっていて。

「お前の両親は……」

「………?」

「お前の両親は、お前に手をかけられたらしいな」

驚愕に、の目が見開かれる。
そしてその体が恐怖でぶるぶると震え出す。

「お前は、両親は家を出て行ったと言っていたな?」

何かを口に出そうとの唇が開くが、音は出ない。
その様を無感情に眺めながら我愛羅は言葉を続ける。

「オレを、だましていたのか……?」

ゆっくりと、の周りに砂が集まっていく。
は自分に近寄りつつある死の足音を聞いた。

「………」

問の答えを促すかのように、我愛羅はを睨めつける。
乾いた唇を開き、無理矢理声を出す。
まるで、蚊のなくような声だった。

「……はい」

その言葉での周りに集まっていた砂が素早く動き、に襲いかかる。
……が、その砂は寸前で動きを止めた。

「………?」

殺されるのを覚悟で目をつぶっていたが、何も怒らないことを不思議に思い、瞳をゆっくりと開いた。

「―――出て行け」

「どうして……?」

呆然としながら、その言葉は自然にののどを通りすぎていった。

「どうして殺さないのですか……?」

「――出て行けといっている」

我愛羅は、そっぽを向いたままを見ようとしなかった。

「何故……ッ?」

「うるさい」

また砂が動き始め、を部屋の外へ追い出そうとする。

「話を……私の話を聞いてくださいッ」

必死に声を出すが、我愛羅の耳には届かない。
今、我愛羅の頭の中には、嘘をつかれたことに対する怒りしかなかった。

「もう二度と、オレの目の前に現れるな」

バタン

最後にその声が聞こえ、の体は部屋の外へ投げ出され、ドアが閉じる音がむなしく響いた。

「話を聞いてください……ッ」

涙を流しながらドアを叩く。
しかし、部屋の中からは一切の音がしなかった。

「お願い……話を聞いて……ッ」

ドアで頭を支えて泣いていると、突然突風が吹いた。
サッと飛び上がり、よける。
その方向を向くと、テマリが扇を広げて立っていた。

「言っただろう、傷つければ殺すと」

涙を浮かべてはテマリを見る。
そして、自嘲的な笑みを浮かべ、涙を拭いた。

「残念ですが、あなたに殺されてやる義理はありません。彼に殺されるなら別ですが」

珍しく挑戦的にテマリを睨む。
には分かっているのだ。
自分のことを我愛羅に密告したのがテマリだと。

「……チィ」

テマリもそれに気付いたのか、少々バツの悪そうな表情をした。

「それと、勘違いしてらっしゃっているようですが、私は父に手をかけてはいませんよ」

それだけ告げると、は立ち上がり、帰ろうとした。
テマリが扇を構え、逃すまいとする。

「待てっ」

扇が振るわれるそのとき、急にテマリの動きが止まった。

「………」

テマリは黙って扇をたたんだ。
それをちらりと横目で見ながら、は静かに屋敷を出て行った。





「何故、邪魔をした」

「………」

我愛羅は答えない。

さきほど、テマリの腕は我愛羅が操る砂によって動きを止められていたのだ。

「何故、殺さなかった?」

質問を変えると、我愛羅は口を開いた。

「……殺そうと思った」

「だったら何故……ッ」

声を荒げようとしたテマリだが、すぐにそれをやめる。
我愛羅の頬を、雫が伝っていた。

「手が……動かなかった。……殺せなかった」

なんてこった……。

テマリはグッと拳を固めた。

あの女は、ちゃんと我愛羅に愛を教えていたと言うのか……。


愛を教えて その6 コタエ
(何が正しくて、何が過ちか)(見分けることは、容易ではなく)

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あとがき
愛を教える。
その響きがなんとなく嫌いです
わざとらしいんですよね
なんか微妙なところで終わりますよね、すいません
05月09日 桃