不出来の芸術

拝啓、デイダラ様。
砂煙が目にしみる季節となりました(ここは年中そうなのか??)。
なぜかあっさりアジトを抜けることを許されたあたしは、ただ今砂隠れの里に来ています。

大丈夫、ちゃんと顔は笠で隠してます。
ここには、一尾だが一味だかいうビじゅうがいるそうなので、しばらくここに滞在して、暁が尾獣狩りに来るのを待つことにします。

アジトの位置を覚えてたらよかったんだけど、綺麗に忘れました。
過去には目を向けない女なのです、あたしは。

――さて。
とりあえず砂肝でも食べてみましょうか。






アジトを出たいと言ったあたしに、カブトさんはあっさりと言った。

「大蛇丸様に聞いてみるよ」

そして大蛇丸は快く了承した。
……うそでしょ??

あたしははしたなくも大口を開ける。

「え、なんで?? ダメなんじゃないの??」

「別に機密情報を漏らさなければいいわよ。
まぁ、そんな大事な情報は特に教えてないはずだけど」

「え、じゃあ痛みうつしたりするのは……??」

「チャクラ千本を置いていってもらうわ。二週に一度くらい補充に来て頂戴」

なるほど、千本が使えるようになったから、もうあたしは用済みなのか。

「それだけじゃないわ」

あたしは驚いて目を見張った。
何、この人心読めるの??

「これを言ったらアナタまた怒るでしょうけどね……。
実はさっきの光景、ずっと見てたのよ」

「………は?? さっきのって、サスケ??」

「えぇ」

「はぁああぁぁっ!?」

思わず大声を上げる。
当たり前だ、この状況で声を上げずにいれる人がいたらお目にかかりたいわ。
だってあれだ、男に押し倒されてる様を第三者に覗かれてたんだよ??
何これ、家政婦は見たとかそういうレベルの話じゃない。

「え、ちょ、待ってっ?? ふつー止めに入るでしょふつー」

「――まぁまぁ、とりあえずね。それで、まさかサスケくんが途中であきらめちゃうとは思わなかったわけよ。
でも彼はやめてしまった。結構後悔してるようなんだけど……ねぇ??」

そう言って大蛇丸は薄く笑った。
赤い舌が楽しそうに軽く跳ねる。

「このままだとアナタ、サスケくんを殺しちゃうでしょ??」

「………」

「で、今のサスケくんだと確実にそれを受け入れてしまう。償いのためにね。
――クク、すごいわねアナタ。あのサスケくんに復讐を諦めさせるのよ。
まぁ楽しいことではあるんだけど、それはあたしにとってはすごく困るの。わかる??」

「……うん」

サスケは大蛇丸の次の器だから。

だけどあたしにはそんな事実は何の意味も為さなかった。
大蛇丸の言うとおり、このままアジトから出られないようだったら、サスケを殺すつもりだった。

あんな雪辱を受けさせられた相手と、同じ屋根の下で暮らしたくない。
そうしたらあたしは確実に大蛇丸に殺されただろうが、それでもマシだ。
どうせこのままデイに会えないなら、どうやって死んだって一緒だ。
だったら、せめて復讐くらいはしときたいじゃないか。

「だから、そうなる前に、追い出したほうがいいでしょう??」

「………」

大蛇丸はどことなくうれしそうだ。
複雑な気分になる。

、行くなら砂がいいと思うよ。
暁は尾獣を集めようと動き出している。
砂隠れには一尾がいるから、比較的早く暁に合流できると思うよ」

カブトさんまでそう言って笠と白い物体を渡してくる。

なんだろう、ここまで追いだす気満々だとかえって出ていく気がなくなるんだけど。

ぶつぶつと言いながらそれを受け取った。

「面……??」

どことなく懐かしい。
と思ったら数年前にあたしが使ったやつだ。

「それは動きの多いときにつけなよ。
笠はいつもつけておくといい。
君が今までに会った忍たちにもしあったらいろいろと面倒だからね」

「あぁ……うん」

砂というと、あの人だろうか。
まず思い浮かぶのは髪を四つに結い分けた、気の強そうな緑の瞳の女の人だ。
えーっと、多由也を倒した人。

だけど、あの人と会った時にもあたしはこの面をつけていた。
だからきっと、ばれるとしたらこの面をつけている時だ。

「………」

うん、この面は深くしまっておくことにしよう。

そう頷きながら面を着物の内側にしまいこむ。
目隠しとなる飾りがついた笠を深くかぶり、あたしはお辞儀をした。

「んじゃ今までお世話になりました」

「もう出るのかい??」

「うん。クナイとかも一通り持ってるし」

今着ている服には大小さまざまな隠しポケットがあり、そこにあたしは忍具とかお金とか、いろいろ詰め込んでいる。

踵を返して歩き出す。
大蛇丸が薄く笑った。

「――。もしアジトの情報を流したら、殺すからね??」

「わかってるわよ」

大丈夫、誰もあたしに記憶力なんて期待してないから。
アジトの位置なんて問われるはずもない。

別れの挨拶などは特にせず、あたしは大蛇丸のアジトを抜けだした。

目指すは暁のアジト。まぁ今はとりあえず砂にでも行って、砂肝でも食べていよう。






「さて。新術も開発できたし、砂肝も食べた!! ……どーしよ、暇だ」

そう呟いて地面に寝転ぶ。

砂肝はおいしかった。歯ごたえが好きかもしれない。
でもまぁ病みつき、ってほどでもないかな。

そして新術については、ここにきてから思いついた技だ。
そんなにあっさり開発できるのかと問われそうだが、実は結構できるのだ。
要は痛みの与え方を変えるだけなので、発想の転換だけできれば、何のことはない。
まぁ、使用方法としては――

「……あれ、なんだあれ」

ふと空を見上げて呟いた。
澄み渡るような青い空の中に……白い鳥??
見覚えがある気もしなくもない。

――まさか。

「………ッ!!」

がばっと体を起こして、遠視鏡をつける。
白い物体に焦点を合わせ、拡大した。
それの上からこぼれる金色の髪を見て、あたしは声をあげた。

「――やっぱり!!」

デイだ。絶対デイだ。
思わず叫びだしたくなる衝動を抑えて、あたしは笠を手に取り、深くかぶった。

まさかこんなに早く、しかもデイがここにくるなんてっ!!
運命だ、きっとそうだ!!

馬鹿なことを考えながらあたしは立ち上がり、地面を蹴って走り出した。






「……ね、そこの人たち、ちょっと待ってよ」

そう声をかけると、デイたちはこちらを振り向いた。
振り向きざまに数本のクナイが飛んでくる。

「――う、わっ……!!」

地面を蹴って宙返りしながらこっちもクナイを投げて、それらをはじき落とす。

いきなり何すんだよサソリさん。
そう文句を言おうとして、あたしは口を開き……、デイに目が行った。

あ、おっきくなってる。
相変わらず年にしたらちっちゃいけど、前よりはだいぶ成長していた。
何年離れてたんだっけ。

そう思案しながらも、第二弾が飛んでこないうちに笠を脱ぐ。

「いきなり攻撃とは、サソリさんも怖いね」

あたしの顔を見て、サソリさんが言った。

「お前……もしかして」

「はーい、お久しぶりです」

「え、旦那、知り合いか??」

「………」

はい、デイ死刑決定。

笑顔が引きつるのを感じながら、あたしは潤んだ瞳を作ってみせた。

「デイ……?? 久しぶりだから忘れちゃった??」

「――?? おいか、うん!?」

今更気付いたらしいよ、この唐変木は。
文句を言おうと口を開くが、デイは先に動いてあたしの襟元を掴んでいた。

てめェ、なんであの時手ェ離したんだ、うん!!」

相当怒っているらしく、青い目が丸く、大きく開いていた。
あたしが怒ろうとしてたのに、なんで怒られてるんだろう。

うーんと唸ってから、あたしはデイの頭を叩いた。

「怒りたいのはこっちだよ、バカデイ!!
デイが助けに来てくれると思って待ってたのに、なんでこないのよ、バカ!!」

「バカはお前だろ、うん!?
オイラは、大蛇丸に勝てるくらいに強くなるまで、力をつけようと思ってたんだ……うん!!」

「だったらせめて会いにくるくらいしてよ!!
あたしがこの数年間、どれだけ寂しかったと思って……!!」

「死んだら元も子もねぇだろ、うん!!」

「死ぬ前に逃げればいいじゃん!!」

「ふざけてんじゃ――」

「――オイそこの二人。痴話げんかしてねェで、とりあえず歩くぞ」

呆れたように首を振ってサソリさんが促す。

不満げにしながらデイはあたしの服から手を離した。
あたしもデイの髪の毛を手放す。

しばらく無言で歩いたのち、デイが口を開いた。

「……あー、その、あれだ、うん」

あたしは静かにデイを見る。
金魚のように口をパクパクさせたあと、デイは言った。

「――手、つながねェか……うん」

「………」

あたしは寛大(そう)な笑みを浮かべた。
あぁ可愛いな、デイは。……だからこそ。

「やだ」

「なんでだ、うん!!」

クク、とサソリさんが笑った。

「だって、デイ最初あたしに気付いてくれなかったじゃん。だからやだ」

「………けっ」

子供のように唇を尖らせて、そっぽを向くデイ。

変わってない。本当に昔のままだ。
違うのは背の高さと、デイの強さくらいだ。
ほんと、大好き。

仕方ないからあたしは、手を伸ばしてデイのつぶれていない方の手を掴んだ。
手に付いている口があたるけど、気にしない。もう慣れてしまったから。

つながれた手を見て、サソリさんが呟く。

「なんというか、お前ら二人とも、ガキだよな」

「……はぁ」

「どういう意味だ……うん!!」

「そのままの意味だ」

ふふんと笑って見てくる。楽しそうだ。

「ガキ同士お似合いだってことだよ」

どういうことかはいまいちわからないけど、とりあえずあたしは笑っておいた。
デイはともかく、あたしがガキだということは自覚していたから。

「あと、デイダラ。お前がいると精神年齢低くなるな」

「ほほぅ。そうなの?? デイ??」

「んなわけねェだろ、うん!! オイラは常に高いぞ!!」

「自分で言ったら効果ないよ」

「少なくとも沸点は低いな」

ぼろくそだ。
悔しそうにデイは唇をかむ。

ほんと面白い。久々だからなおのこと。

そしてあたしはピタリと足を止めた。
後ろから誰かが近付いてきたからだ。
デイとサソリさんは気付いていたらしいが、
気にせず歩を進めるのであたしの腕はひっぱられ、歩き続ける羽目になった。

「ほっといていいの??」

「俺たちに用のある奴だとは限らねェだろ」

「もしかしたらみたいな用事の奴かもしれねェ……うん」

あたしみたいな訳ありの人間がほかにそういるとは思えないけど。
そう思ってあたしは眉をよせた。

「……デイ、ひょっとしてあたしのいない間に女作った??」

「……なっ!! 何バカなこと言ってんだ、うん!!」

「………」

怪しい。
あたしは背伸びを少しして、顔を近づけた。

「だって、あたし以外に、悪意なしでデイに用の合う人間なんている??
少なくともあたしは知らないもん。
だったら、女作ったってのが一番妥当……」

「だからなんでそういうことに……ッ!!」

「あ、。そいつこの間の任務で可愛い女の子追い回してたぜ」

「なんですって。それは本当か、デイ」

デイが慌てたように手を振る。
半眼になってあたしはデイを睨んだ。

「それは違うぞ、うん。あれは任務がそういう内容で……」

「その割には殺すの躊躇してたじゃねェか」

「……う」

口ごもるデイ。
サソリさんは楽しそうに笑ったけれど、あたしは結構本気でムカついた。

ふんだ。
あたしが頑張って修行しているうちにデイは女の子と鬼ごっこですか。
幸せな奴だねこのヤロー。

あたしはデイの手を離した。それも無理矢理。

「オイ、ちょっ、!?」

「デイのばーか。その子殺さずに一緒にランデヴーしときゃよかったんだ」

デイの手がまた延ばされてくるが、冷たく払いのける。

……ッ!!」

「ばーかばーか、ちょんまげばーか」

「ちょんま……っ」

ほんとガキだな、とサソリさんが呟くけど無視。

そうだよ、ガキだよ。
だからデイに嫌われたら死にそうになるし、デイがほかの人を好きになったって聞いたら泣きたくなる。

不意にデイとの間隔を開けるあたしに、デイが何かを言おうと口を開いたとき、後ろから声が聞こえてきた。

「待て……!!」

男の声だ。それも、だいぶと若い。

デイとサソリさんが足を止めて振りかえった。
あたしも止まって、ちらりと相手を見る。

顔に不思議なペイントをした、男の人だ。
あぁ、とあたしは手を打った。
この人あれだね、カブトさんに教えてもらった、『砂の三兄弟』の人だね。
確か一番下が風影で一尾の人柱力で、二番目が傀儡使いで、一番上が多由也を倒したお姉さんだった。
消去法で考えると、二番目のカンクロウって人だろう。

あたしの予測は正しかったようで、相手は背中から巻物を下ろして転がし、三体の傀儡を出した。

「我愛羅を返してもらうじゃん」

デイがちらりとサソリさんを見る。
サソリさんは薄く笑う(ように見えた)と、デイに言った。

「デイダラ、お前は先行ってろ。こいつの相手はオレがする」

静かに頷いて、デイはあたしの腕を掴んで無理矢理造形に乗せた。

「じゃ、先行っとくぜ、旦那……うん」

言って、鳥は飛びあがる。
あたしは遠ざかっていくサソリさんを見下ろした。
途端にバランスを崩し、落ちそうになる。

がし、とデイに腕を掴まれて、なんとか踏みとどまった。

「あぶねェな……、うん。気をつけろよ」

「―――ごめん」

先ほどのことを思い出し、それだけ言って手を振り払って距離をあけた。
あくまで造形の上なので、30㎝くらい。
そしてそのまま背を向ける。

「……

「近づかないで。半径30㎝以内に入らないで」

踏み出そうとしていた一歩が止まったのが、気配で分かった。

うん、それでいい。

あたしは心の内だけで頷いた。

なぜか、ほんとになんでかわかんないけど、あたしは泣いていた。
いや違うか。悲しいからだ。
そうだよ、悲しいんだ。
頑張ってやっと大蛇丸のところからデイに会いに来たのに、そのデイはあたしの留守中にほかの女の子と遊んでたんだ。
いや、遊んでたのかは知らないけど、とりあえず悲しいに決まってるじゃん。

?? どうかしたのか、うん??」

どうかしたのかもクソもないよ、バカ。
だからデイはバカなんだよバーカバーカ。

あたしは無言を貫く。
それが悪かったのか、デイはあたしのテリトリー(半径30㎝)に入り込んできた。
たった30㎝なので、一歩で間を詰められて、無理矢理顔を向けさせられた。

もう泣いていたことはごまかしようもないので、最後の悪あがきであたしは視線をそむける。
デイの青い目が一瞬丸くなって、そのあとデイはあたしをがばっと抱きしめた。

「ごめんな……うん。
旦那の言ったことは本当じゃないというか、半分はホントで半分は嘘というか……」

モゴモゴと何か言いながら、デイは細い指先であたしの涙をぬぐった。
一筋一筋、丁寧に。まるで愛撫するかのように。

「その、だな、うん!! その女が、お前と同じ色の髪をしてたから……、とかぶせちゃっただけだ、うん」

だから泣くなとやさしい瞳を向けてくる。
あぁもう。あたしは何度この瞳を恋しく思ったことだろう。

「だから許してくれ……な??」

「………やだ」

「………」

「………」

無言でにらみ合う。
一瞬思案した後、デイは急に腕に力をこめて、あたしを押し倒した。

そして真剣に……うん、とても真剣な表情で口を開いた。
見ようによっては怒っているようにも見えるかもしれない。

「どうしても言うこと聞かねェってんなら、犯すぞ……うん」

「………」

あたしは涙目のまま半眼になって、デイの横腹を蹴りあげる。

「が、は……ッ!!」

「変態」

よっこいせ、と体を起こしてあたしはまたデイに背中を向けた。

あーもうムカつくムカつく。
なんていうか、なんでこうデリカシーというものがないんだろう。

少しくらいはデイもそう思ったのか、もう何もしてこなかった。

「なぁ……、…。ホント怒んなって……うん。
せっかく会えたってのに、ケンカってのは嫌なんだよ……うん」

「………」

あたしは少しだけ、視線をデイに向ける。

「ずっと、オイラはお前に会いたかったんだ……うん。他の女のことなんて考えてられっかよ」

デイが恐る恐るといった表情で手を伸ばして、あたしの腕を掴んだ。
そのままぐっと引き寄せられて、強く抱きしめられる。
あたしは為す術もなく、ただデイの長い髪を見つめていた。

「――はなして」

「離さねェよ…うん。離してなんかやらねェ、絶対。
お前はずっと、死ぬまでオイラの側にいろよ…いてくれよ、うん。
お前なしじゃオイラ……生きていけねェよ」

「……デイ??」

声がやけに震えていたのが気になって、声をかけた。
体と体の隙間を少し開けて、デイの顔を見る。

――目があった瞬間に、口づけられた。

「………っ」

それはとても力強く、切なく、狂おしく。
まるで、あたしたちにまた訪れる別れを嘆くように。恐れるように。
あたしは目を閉じることもできずに、ただただデイの唇を受け止めていた。

久々の、接吻。
それはつい先日受けた荒々しいものとは違って、とても幸福でとても愛おしいものだった。

そうだよ、別れは怖い。
でもさ、デイ。

あたしにとっては今日会えた幸福のほうが、大きいんだよ。

近い将来、それは必ずやってくる。
人が必ず死ぬのと同じように、永遠に共に在ることなんてできはしない。

とりあえず、今デイに伝えたいことは一つだけだった。
ようやく唇を離したデイに、あたしは微笑みかける。

「愛してるよ、デイ」

「…………」

再び、押し倒される。

もうあたしはデイを蹴らなかった。
ただ、デイを受け入れた。



別れまでどれほどの時があるのかわからない。
だけど、それまでの間くらいはしっかり楽しみたいじゃないか。

不出来の芸術 11

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あとがき
ん、なんか久々すぎてキャラがわからん
自業自得だなこりゃ
長編多すぎな気がする
08月09日 桃