愛を教えて その3

「すまない」

 あの我愛羅がそう言った。
 テマリとカンクロウが顔を見合わせた。
 珍しいこともあるもんだな……。
 そう思っていた。


 しばらくそのまま進んでいると、市が見えてきた。
 あ、そうだ、とテマリは呟き、森の中の地面に降りた。

「買う物があるから、市に行ってくる」

「あ、それならオレも。……我愛羅はどうじゃん?」

 カンクロウがそう言うと、我愛羅は首を振った。

「いい」

「そうか」

 二人は我愛羅をすぐそばの木にもたれかけさせると、市に向かって走っていった。

 あの女もきてそうだからな……。

 その市は、と我愛羅が出会ったところだった。



 案の定、いた。
 はまた小麦粉を買いにこの市へ来ていたのだ。

「あれ……?」

 テマリとカンクロウがいる。
 ひっそりと近づいていくと、テマリがこちらを向いた。

「あ、この間の……」

 名前が出ないらしく、口をぱくぱくとさせている。

「えと……です」

「あー、じゃん。買い物か?」

 カンクロウが明るい声をあげた。

「はい、小麦粉を買いに……」

「我愛羅なら、そこの森にいるじゃん」

「え……」

 キョロキョロとしていたことに気付かれたのだろう。
 頬が赤くなるのを感じながらは聞いた。

「行って、いいんですか?」

「あぁ。もし何かされかけても、今あいつ満身創痍だから、なにもできないじゃんよ」

 会いたい。もし話ができなくても、姿を見るだけでいい。

「ありがとうございますっ」

 は駆けだした。
 その会話を、ガラの悪そうな男たちが盗み聞いていた。



「いた……」

 鼻を頼りに道を歩いて、我愛羅の元へたどり着いた。
 我愛羅は木にもたれかかって、呆れた顔をした。

「またお前らか……」

 お前ら……?
 不思議に思って振り向くと、背後に何人もの男たちがいた。

「こんにちわ、砂爆の我愛羅さんよぉ。この間の仕返しにきてやったぜぇ」

 前にに絡んで、我愛羅に返り討ちにされた男たちだった。

「やっほー、お嬢ちゃん。このあといっぱいお話ししようねぇ」

 嫌な笑顔を浮かべながら、に手をさしのべてくる。

「嫌ッ」

 走って我愛羅のすぐ脇に行く。

「ごめんなさい、私が気付かなかったばかりに……」

 我愛羅は黙って自分の手を見つめた。

 チャクラがもう、残り少ない……。

 ニヤニヤと笑いながら、男たちがクナイや手裏剣を取り出す。
 が意を決したように、手のひらを口元へ近づけた。

「待て」

 我愛羅はの腕を掴んだ。

「お前は逃げろ。邪魔だ」

「嫌ですっ。私だって戦えます」

 は我愛羅を睨んだ。
 彼が今戦える状態にないことは、分かり切っていた。このまま戦っていたら、命を落としかねない。

「うるさい」

 我愛羅はゆっくりと立ち上がった。

「殺すぞ」

 ゾクッと、寒気が走った。
 そのときに我愛羅がに向けた視線には、確かに殺意がこもっていた。
 は渋々引き下がり、走っていった。

「おい、お前らはあのガキを追いかけろ」

 一人の男が仲間にそう命じ、仲間が二人ほどを追おうとした。

「行かせるか……」

 我愛羅の砂に阻まれて、進むことができない。

「余計なことしてて、自分がケガしてもしらねーぞぉ?」

 楽しそうにそう言うと、男が我愛羅にクナイを投げつけた。
 しかし、砂の盾で阻まれる。

「やっぱり、クナイくらいじゃだめかぁ……」

 男がそう言ったとき、我愛羅の背後に何者かが忍び寄り、恐ろしいスピードで我愛羅の後頭部を打撃した。
 我愛羅は急に意識が遠のくのを感じた。

「お前……」

 うっすらとの姿を見た我愛羅は、に聞いた。

「何故……」

「やっぱり心配で、戻って来ちゃいました。それで……これ以上無茶されたら困るんで、しばらく眠っててください」

 我愛羅は何も言わずに、倒れた。
 それを受け止めてちゃんと寝かせた後、は手のひらを口元へ近づけ、親指を軽く噛んだ。
 ぽたり、と一滴の血が流れ出る。
 すると、すぐにの頭から黒い猫耳が生えだし、黒く長いしっぽも生えた。
 瞳は黄色く光り、爪は鋭くとがった状態で、どんどん伸びていく。

「なんだ、お嬢ちゃん。コスプレか?」

 似合ってるぜー、と騒ぎ立てる男どもを振り返ると、は足にチャクラを集め、跳んだ。



「……あら……我愛羅……」
 我愛羅が目を開けると、テマリとカンクロウが肩を揺さぶっていた。

「お前、一体この死体はなんだ?」

 テマリが厳しい表情で聞いてくる。
 それには答えず、痛む後頭部に手を当て、我愛羅は聞いた。

「あいつは?」

「あいつ?」

「女がいなかったか?」

 テマリは不思議そうに答えた。

「女なんていなかったぞ。それより、こいつら見てよ。みんな頸動脈切られて死んでるのよ」

「まるで化け猫に襲われたような死に方じゃん」

 カンクロウも言った。



 意識を完全に失う直前に見た物。
 それは一体なんだったか。



「猫……」

 我愛羅は小さく呟いた。

愛を教えて その3 ショウタイ
(一体誰なんだ?)(その問いに返事はなく)

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あとがき

恋愛のれの字もないっすね。
ていうか主人公何もんだよみたいな。
それは次の話で明らかになるんですがー
んま、がんばって読んでくださいな。

04月05日 桃