先日の戦いの時の疲労で、我愛羅が臥せっているらしい。
わざわざカンクロウがそれを伝えに演習場まで来てくれたので、は花を持って見舞いに行くことにした。
「またお前か」
部屋にはいると、呆れたような表情でこちらを見てきた。
「……しつこくてすみません」
うつむいてそう言うと、我愛羅はベッドの上で体を起こした。
少しでも彼に近づこうと、はベッドのそばまで寄っていった。
気まずい空気が二人の間を流れる。
ふと、我愛羅が沈黙を破った。
「あいつらを殺したのは、お前か?」
は何も答えない。
不機嫌そうに眉を寄せると、我愛羅はの右腕を荒々しく掴んだ。
力を入れて握りながら命令する。
「――言え」
右腕が悲鳴をあげているのを感じ、は小さく頷いた。
しかし、それでもまだ我愛羅はの腕を放そうとはしなかった。
「どのようにして殺した?」
「………」
またもやが黙っていると、我愛羅の手にさらに力が入った。
右手首がキリキリと音を立てている。
は観念して口を開き、語り出した。
「私は、両親のことが原因で、幼い頃ずっといじめられていました」
それがどうした、と言わんばかりに我愛羅はを睨んだが、今にも泣き出しそうなの表情をみて、手に入れていた力を少し抜いた。
「私の父は、二尾といわれている尾獣、猫又です。人に変化して、町に出ているうち、母と出会って恋に落ち、私が生まれました。化生の子を産んだ母は両親から勘当され、まだ赤子だった私を抱いて、父と三人で山奥の小屋に逃げ込み、そこで暮らし始めました。いろいろとあって、両親はどこかへ出て行ってしまい、バケモノの血を受け継いでいる私は、近所の大人たちや子供たちからさんざん迫害されました」
そこまで話すと、は我愛羅と目を合わせ、少し笑った。
「もうおわかりでしょう?私には、猫又の血が流れているんです。憑依させられたあなたとは、少しタイプが違いますが、同じようなものだと考えてください。……ですから、先日彼らを殺したときには」
そこで言葉を切り、は親指を軽く噛んだ。
ぽたりと血がしたたり落ちると、それをきっかけにの体が変化していき、黒く長い尾と、黒い耳と、鋭い爪を持つ猫人間になっていった。
その爪を素早く我愛羅の首筋に当てる。
「………っ」
砂の盾などは到底追いつかない。
素早すぎる動きで我愛羅の首筋に爪を立てると、はにっこりと笑った。
「このようにして殺したわけです」
そのまま何もせずに、手を退いた。
信じられないといった表情での顔を見ると、我愛羅は小さく呟いた。
「お前も、オレと同じなんだな」
幼い頃からバケモノとして迫害されてきた自分と、の姿が重なったのだろう。
同じように感じていたは、静かに笑って返した。
「そうかもしれませんね」
「………」
しばらく黙って考えていた我愛羅が、不意に呟いた。
「クッキー」
「は?」
いきなり何の話だ。
が怪訝気な表情をすると、我愛羅は無表情のまま呟いた。
「お前の焼いたクッキー、あれを今度もってこい」
それを聞いたは、目を輝かせた。
「は、はいッ。明日、持ってきますっ」
に自分と同じようなものを見た我愛羅は、このとき少しだけ彼女に対して心を開いたのだった。
はそのとき、表面上は嬉しそうにしていたが、心の中では罪悪感でいっぱいだった。
本当は、母は出て行ったのではない。殺されたのだ。
それも、の手によって。
愛を教えて その4 キョウグウ
(少し心が痛むのは、あなたに闇を見せたくないから)
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あとがき
うわぉ
何がどう恋愛モノなんだ
我愛羅さんおどしてんじゃんッ
明かされなかった主人公の過去は、いずれそのうち。
04月07日 桃