愛を教えて その4

 先日の戦いの時の疲労で、我愛羅が臥せっているらしい。
 わざわざカンクロウがそれを伝えに演習場まで来てくれたので、は花を持って見舞いに行くことにした。

「またお前か」

 部屋にはいると、呆れたような表情でこちらを見てきた。

「……しつこくてすみません」

 うつむいてそう言うと、我愛羅はベッドの上で体を起こした。
 少しでも彼に近づこうと、はベッドのそばまで寄っていった。
 気まずい空気が二人の間を流れる。
 ふと、我愛羅が沈黙を破った。

「あいつらを殺したのは、お前か?」
 
 は何も答えない。
 不機嫌そうに眉を寄せると、我愛羅はの右腕を荒々しく掴んだ。
 力を入れて握りながら命令する。

「――言え」

 右腕が悲鳴をあげているのを感じ、は小さく頷いた。
 しかし、それでもまだ我愛羅はの腕を放そうとはしなかった。

「どのようにして殺した?」

「………」

 またもやが黙っていると、我愛羅の手にさらに力が入った。
 右手首がキリキリと音を立てている。
 は観念して口を開き、語り出した。

「私は、両親のことが原因で、幼い頃ずっといじめられていました」

 それがどうした、と言わんばかりに我愛羅はを睨んだが、今にも泣き出しそうなの表情をみて、手に入れていた力を少し抜いた。

「私の父は、二尾といわれている尾獣、猫又です。人に変化して、町に出ているうち、母と出会って恋に落ち、私が生まれました。化生の子を産んだ母は両親から勘当され、まだ赤子だった私を抱いて、父と三人で山奥の小屋に逃げ込み、そこで暮らし始めました。いろいろとあって、両親はどこかへ出て行ってしまい、バケモノの血を受け継いでいる私は、近所の大人たちや子供たちからさんざん迫害されました」

 そこまで話すと、は我愛羅と目を合わせ、少し笑った。

「もうおわかりでしょう?私には、猫又の血が流れているんです。憑依させられたあなたとは、少しタイプが違いますが、同じようなものだと考えてください。……ですから、先日彼らを殺したときには」

 そこで言葉を切り、は親指を軽く噛んだ。
 ぽたりと血がしたたり落ちると、それをきっかけにの体が変化していき、黒く長い尾と、黒い耳と、鋭い爪を持つ猫人間になっていった。
 その爪を素早く我愛羅の首筋に当てる。

「………っ」

 砂の盾などは到底追いつかない。
 素早すぎる動きで我愛羅の首筋に爪を立てると、はにっこりと笑った。

「このようにして殺したわけです」

 そのまま何もせずに、手を退いた。
 信じられないといった表情での顔を見ると、我愛羅は小さく呟いた。

「お前も、オレと同じなんだな」

 幼い頃からバケモノとして迫害されてきた自分と、の姿が重なったのだろう。
 同じように感じていたは、静かに笑って返した。

「そうかもしれませんね」

「………」

 しばらく黙って考えていた我愛羅が、不意に呟いた。
 
「クッキー」

「は?」

 いきなり何の話だ。
 が怪訝気な表情をすると、我愛羅は無表情のまま呟いた。

「お前の焼いたクッキー、あれを今度もってこい」

 それを聞いたは、目を輝かせた。

「は、はいッ。明日、持ってきますっ」

 に自分と同じようなものを見た我愛羅は、このとき少しだけ彼女に対して心を開いたのだった。


 はそのとき、表面上は嬉しそうにしていたが、心の中では罪悪感でいっぱいだった。
 本当は、母は出て行ったのではない。殺されたのだ。
 それも、の手によって。


 愛を教えて その4 キョウグウ

(少し心が痛むのは、あなたに闇を見せたくないから)

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あとがき

うわぉ
何がどう恋愛モノなんだ
我愛羅さんおどしてんじゃんッ
明かされなかった主人公の過去は、いずれそのうち。

04月07日 桃