愛を教えて その5

「我愛羅くん、あの……クッキー焼いてきたんですけど、その……」

 結構お元気そうですね、とは心の中で呟いた。

「………?」

 振り返る我愛羅の体の前には、砂によって作られた我愛羅の分身があった。
 もごもごと砂は動き、次いでテマリとカンクロウの砂人形を作り出す。

「……少しでも使わないと、腕がなまる」

「そうですね」

 は頷くと、クッキーの袋を広げて、我愛羅に差し出した。

「どうぞ」

「……あぁ」

 無表情のまま手を袋に突っ込み、クッキーを一つ食べる。
 黙々と食べる我愛羅を見て、は少し笑って聞いた。

「お味はどうですか?」

「……きらいじゃない」

 前と同じような事を言った後、我愛羅はさらにもう一つのクッキーを口に入れた。

「お前は、これをよく作るのか?」

「はい。ミナト様……えっと、私を拾ってくださり、養ってくださっている方が、これが好きで……いつも持って行っているんです」

 少し頬を赤らめてそう答えると、我愛羅はパキ、とクッキーを歯で割った。

「…………」

 が静かに砂人形を眺めていると、また砂が動き始めた。
 だんだんと、その姿が形を作ってくる。
 やがてそれの姿がはっきりと分かるようになったとき、はハッと息を呑んだ。

「クッキーの、礼だ」

 それは、大きな二つの尾をもつ猫と共にまどろんでいる、とその母親の姿が描かれていた。
 もちろん、猫又と母親は我愛羅の想像で作り上げたモノで、の記憶していたモノとは違っていたが。
 は目に涙を浮かべながらそれを見つめた。

「ありがとうございます……」

 父を描いたその猫又は、穏やかな表情でを見つめていた。

「私、今思ったんですけど」

 静かにそう切り出すと、我愛羅は片眉を上げてを見た。

「我愛羅くんは、こんなきれいなものを作り出せるんだから、怖い人なわけがない、って。そう思いません?」

「………」

 その言葉に面食らったのか、我愛羅の作った砂人形はサラサラと崩れ落ちていった。

「そんな不思議な事を言う奴にあったのは、お前が初めてだ……」

 クッキーを手中で弄びながら我愛羅は言った。

「そうですか?」

 はにっこりと笑う。
 それを横目で見ながら、我愛羅は小さく聞いた。

「お前を拾った奴とは、一体何者だ?」

「………え」

「お前のような両親に捨てられた者を拾って、それに愛情を注げる者がいるということが、信じられない」

 まず我愛羅には愛というモノがよく分からない。
 我愛羅。我を愛する修羅。
 自分以外の者に対して、愛を向けることが理解できない。その必要性が感じられない。

 目を閉じて小さく笑うと、は言った。

「いずれ、お話しします」

 我愛羅は小さく、だが確かに頷いた。




 我愛羅の部屋を出ると、廊下でテマリが待ち伏せていた。

「我愛羅に、愛を教えるつもりなのか?」

 テマリが聞く。

「愛……、ですか。教えるのも、いいですね……」

「そうする事は勝手だが、あいつを傷つけたら、殺すぞ」

 そう言って扇に手をかける。

「……はい。心にとめておきます」

 はそういい、一礼して去って行った。

「せっかく傷が癒えてきたんだ……。えぐるような真似をしたら……本当に許せない」

 テマリは壁にもたれかかり、ため息をついた。

 愛を教えて その5 ニンギョウ

(その陰に見たものはきっと、キミの優しさ)


Next

あとがき
えー、主人公の性格が変わってきている気がします。
きっと気のせいでしょう。
多分。
精神的に成長したんだよ、きっと。

04月16日 桃