「我愛羅くん、あの……クッキー焼いてきたんですけど、その……」
結構お元気そうですね、とは心の中で呟いた。
「………?」
振り返る我愛羅の体の前には、砂によって作られた我愛羅の分身があった。
もごもごと砂は動き、次いでテマリとカンクロウの砂人形を作り出す。
「……少しでも使わないと、腕がなまる」
「そうですね」
は頷くと、クッキーの袋を広げて、我愛羅に差し出した。
「どうぞ」
「……あぁ」
無表情のまま手を袋に突っ込み、クッキーを一つ食べる。
黙々と食べる我愛羅を見て、は少し笑って聞いた。
「お味はどうですか?」
「……きらいじゃない」
前と同じような事を言った後、我愛羅はさらにもう一つのクッキーを口に入れた。
「お前は、これをよく作るのか?」
「はい。ミナト様……えっと、私を拾ってくださり、養ってくださっている方が、これが好きで……いつも持って行っているんです」
少し頬を赤らめてそう答えると、我愛羅はパキ、とクッキーを歯で割った。
「…………」
が静かに砂人形を眺めていると、また砂が動き始めた。
だんだんと、その姿が形を作ってくる。
やがてそれの姿がはっきりと分かるようになったとき、はハッと息を呑んだ。
「クッキーの、礼だ」
それは、大きな二つの尾をもつ猫と共にまどろんでいる、とその母親の姿が描かれていた。
もちろん、猫又と母親は我愛羅の想像で作り上げたモノで、の記憶していたモノとは違っていたが。
は目に涙を浮かべながらそれを見つめた。
「ありがとうございます……」
父を描いたその猫又は、穏やかな表情でを見つめていた。
「私、今思ったんですけど」
静かにそう切り出すと、我愛羅は片眉を上げてを見た。
「我愛羅くんは、こんなきれいなものを作り出せるんだから、怖い人なわけがない、って。そう思いません?」
「………」
その言葉に面食らったのか、我愛羅の作った砂人形はサラサラと崩れ落ちていった。
「そんな不思議な事を言う奴にあったのは、お前が初めてだ……」
クッキーを手中で弄びながら我愛羅は言った。
「そうですか?」
はにっこりと笑う。
それを横目で見ながら、我愛羅は小さく聞いた。
「お前を拾った奴とは、一体何者だ?」
「………え」
「お前のような両親に捨てられた者を拾って、それに愛情を注げる者がいるということが、信じられない」
まず我愛羅には愛というモノがよく分からない。
我愛羅。我を愛する修羅。
自分以外の者に対して、愛を向けることが理解できない。その必要性が感じられない。
目を閉じて小さく笑うと、は言った。
「いずれ、お話しします」
我愛羅は小さく、だが確かに頷いた。
我愛羅の部屋を出ると、廊下でテマリが待ち伏せていた。
「我愛羅に、愛を教えるつもりなのか?」
テマリが聞く。
「愛……、ですか。教えるのも、いいですね……」
「そうする事は勝手だが、あいつを傷つけたら、殺すぞ」
そう言って扇に手をかける。
「……はい。心にとめておきます」
はそういい、一礼して去って行った。
「せっかく傷が癒えてきたんだ……。えぐるような真似をしたら……本当に許せない」
テマリは壁にもたれかかり、ため息をついた。
愛を教えて その5 ニンギョウ
(その陰に見たものはきっと、キミの優しさ)
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あとがき
えー、主人公の性格が変わってきている気がします。
きっと気のせいでしょう。
多分。
精神的に成長したんだよ、きっと。
04月16日 桃