あたしの日課は粘土バカの粘土細工をいじって壊すことだ。
そしていつも、あたしの悪行に気が付いたデイが怒りだし、
黄色い長い髪を降り乱して追いかけてきて、楽しい鬼ごっこが始まるんだ。
どんなに大事な粘土細工を潰されても起爆粘土だけは使わないんだから、本当に彼は出来た人間だと思う。
今日だって、彼が半日かけて造り上げた最新作を指でつついて壊してしまったけど、彼がやったことと言えば、
はぁとため息をついた後、まんまるい目を目一杯に広げて大声で怒鳴ってきただけだった。
「てめぇはいったい何度オイラの芸術を壊したら気が済むんだ、うん!?」
「いや、壊そうと思って壊した訳じゃないのよ!?」
あわてて弁解する。
事実だった。
どうしたらこんな細かいものが造れるんだろうなぁちょっと触って見てみたらわかるかしら、
なんて思って指でつついたら、まだ渇ききってなかったらしく、予想外にぐにゃんと。
ぎゃーまたやっちゃったぁーと頭を抱えていたら背後で殺気。
恐る恐る振り向いたら、デイのため息が聞こえて……そして今に至る。
「いやすいません、粘土の渇きにくさなめてました」
「言い訳してんじゃねぇッ!!今日という今日は一発殴らせろ、うん!!」
そしてまた鬼ごっこ開始。鬼は永久にデイ。これだけはもう決められたお約束。
ちなみに、あたしは一度も捕まった事はない。逃げ足の速さだけが取り柄ですから。
いつものように家の中を走り回って、所狭しと家の周りも走り回って。
デイはあたしに対しては絶対に粘土は使わないからそれに関しては安心なんだけど、
デイが本気で走ったらさすがのあたしもヤバい。
一応彼は元忍だから、忍特有の走りかたってのができるわけで。
対するあたしはその辺の一般市民なので、普通の走り以外の走りかたってのができる訳ない。
まぁ、それじゃあフェアじゃないから、きっと彼は使わないはず。
確かめるようにチラリと後ろのデイを見てみると、デイがフッと飛び上がった。
うわ、忍特有の走り使いおる!!
「ちょっとッ!ズルいよそれッ」
「聞こえねぇな、うん」
その声が上から降ってきたのを感じると、あたしは服のポケットから煙玉をとり出し、投げた。
「……えいッ」
ボンッ
途端に煙が辺りに充満する。
「なッ。きたねぇぞ、コラ」
「お互い様ですっ」
煙の中のデイに向かってそう言うと、あたしはとっととその場を去った。
今のうちにどこかに隠れよう!!
そう思って家の中に入ると、あたしは家の中を見回した。
そして、にやりと笑う。
ここならバレないよね、多分ッ。
そう思いながらよいしょ、とジャンプする。ギリギリのところで天井にある出っ張りをつかみ、もう片方の手で天井を叩く。
手当たり次第に叩いていくと、一ヶ所で天井がボコリと音をたてて上に浮き上がった。
あたしはまたにやりと笑い、その板を横に避けた。手に力を入れて体を浮かすと、天井裏に潜り込み、また板を元の位置に戻す。
予想外に暗いけど、まぁなんとかなるでしょ。
板を少しずらして隙間を作り、そこから下の様子を眺める。まだ誰も来ていないが、もうすぐデイが来るだろう。
デイに教えてもらった気配の消しかたを実践してみる。
これでバレなかったらすごいよね。デイに感謝だわ。
数分もすると、人が入ってきた。
身を固くして穴を除きこむが、あたしはすぐに眉を潜めた。
(デイじゃない…誰??)
それも複数人だ。
なんかよくわからないけど、黒と赤のお揃いの服を着た人が三人、少しの遠慮もなしに家の中に入って来ている。
「おや、留守ですかね…」
一番人間らしくない怖い顔をした男の人がそう言うと、一番綺麗な顔をした人が頭を振った。
「いや…、隠れているだけだ」
そう言ってこちらをじぃっと見てくる。
ダメじゃん、デイ。これ実践じゃ使えないよ。
這いつくばってる変な人があたしに向かってなにかをいいかけたとき、デイが大声を上げて入ってきた。
「、てめぇいい加減にしやがれ、うんッ。……って、なんだてめぇら??」
デイが黒と赤の人達をじろりと見て聞いた。
「おい、なに勝手に人んちに入ってんだ、うん??」
責めるような目付きで見られても、黒と赤の人達は顔色ひとつ変えなかった。
一番綺麗な顔の人が静かに切り出す。
「オレたちは、暁と言う組織のメンバーだ。お前に暁に入るようにいいにきた」
「暁だァ?」
デイがあからさまに嫌そうな顔をした。
そりゃそうでしょ、あの粘土バカは芸術にしか興味ないんだもん。
でもやだなーデイが起爆粘土取り出しちゃったよ。
きっとまた彼の芸術観をグダグダと演説しだすんだよ。
その予想が見事に当たり、あたしは天井裏で呆れ顔を見せた。
「ウザいな、こいつ」
這いつくばってる変な人が呟いた。
同感。
得体の知れない人達だけど、意見は一致したようだ。
そして、なんだか知らないけれど急に戦闘が始まってしまった。
あーあ、デイはキレやすいからなー。少しはあの、冷静な綺麗な人を見習いなさいな。
しかもあっさりあしらわれてるし。
壁壊れちゃってるじゃん。あれ直さなくちゃなんないのかぁ…。
―あれ?デイってあんなに弱かったっけ??
不思議に思って首をかしげる。
そのとき、綺麗な男の人が言った。
「お前の負けだ」
デイが信じられない、と言った顔をする。
あぁそうか。デイが弱いんじゃなくて、彼が強いんだ。
「…くそッ」
悪態をつくデイ。
怖い顔をした人に促されると、口を開いた。
「……条件がある」
「なんだ?」
綺麗な人が聞いた。
デイは急に天井を見ると言った。
「おい、、いるんだろ…うん。降りてこい、うん!!」
ガタリ、と音をたてて板を動かし、あたしは下半身を下ろした。
両手で天井を掴み、ゆっくりと体を下ろして行く。
「………」
黒と赤の人達が静かにあたしを見る。
やだ、すごい変な格好してるのに、そんなにじろじろ見ないでよ。
「……あ」
ずりッ
手が滑って、あたしは急降下。
デイが血相を変えてあたしを見た。
ゴンッ
鈍い音がして、あたしはそばにあったコンクリの固まりに頭をぶつけた。さっきデイが起爆粘土で破壊したやつだ。
――たらり。
「………」
「大丈夫か、うんッ!?」
黒と赤の人達唖然。デイあたふた。あたし流血。
あたしは額を流れる液体を指で拭った後、よいしょ、と立ち上がった。
デイが駆け寄ってきて、自身の服の袖であたしの額を拭いた。
「大丈夫だよー、痛くないもん」
「痛くないから問題なんだよ、うんッ」
あたしの血を一通り拭き終わると、デイは一息ついてから、黒と赤の人達に向き直った。
「……こいつを一緒に連れて行く事だ、うん」
「…………」
黒と赤の人達が顔を見合わせる。
やがて、這いつくばってる変な人が言った。
「いいんじゃねぇか??ガキの一人や二人、増えたところで変わりゃしねぇよ」
「ところで…その方は誰ですか??」
怖い顔の人が言った。
当然だよね、あの人達はあたしのことなんにも知らないんだもん。
あたしもあの人達のことは知らないけれど。
あたしは満面の笑みを作ると、言った。
「えっと、といいます。デイと同い年で、一族の末裔です」
「一族……聞いた事はある。痛みを他人に移す能力だったな」
無表情のまま、綺麗な人が呟いた。デイが一歩前へ出て、あたしの体質の事を説明しだす。
もう、黙ってりゃいいのに。
「はその中でも珍しくて、痛みを感じない体質なんだ、うん。
痛みは感じなくても傷は受けるから、こいつはよくそれに気付かず傷を放置して何度か死にかけてる。
だから、こいつはオイラがいねぇとダメなんだよ、うん!!」
「別にデイなんかいなくたって大丈夫だよッ」
頬を膨らませてそう言うと、デイはギロッとあたしを睨んだ。
「先週ウサギ用の罠に引っ掛かって足から血ぃだらだら流したまま、
気が付かずに走り回ってたのはどこのどいつだ…うん!?」
「う……あたしです……」
「それに気がついてすぐ手当てしてやったのは誰だッ!?」
「デイ……だけど……」
「それ見ろッ、うんっ!!一人だったらのたれ死ぬに決まってる、うんッ」
くそ、言い返せねぇ。
これだからデイは嫌いなんだ。
あたしは唇を尖らせて答えた。
「わーかったわよッついてきゃいいんでしょ、ついてきゃッ」
「決まりだな」
綺麗な顔の人が言った。
その言葉でみんなぞろぞろと家から出て行く。
デイが手の口でC2ドラゴンを作り出すと、あたしはそれに飛び乗った。
続いて黒と赤の人たちも乗る。
「お前らをのせてやるのは今日限りだからな……うん。今日はがいるからしょうがねぇ、うん」
なんかグダグダ言ってるけど、黒と赤の人たちは普通に無視。
そのままドラゴンは浮かび上がって、彼らが指し示す暁のアジトとやらに向かって飛び立った。
今思えば、あの時暁にいくことをあたしがちゃんと拒否していれば、
あたしの人生はもう少しマシなものになっていたかもしれない。
そうしたら、あんな悲しい出来事もおこらなくてすんだかも知れないのに……。
不出来の芸術 1
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あとがき
んー、オチがねぇ((笑
このシリーズはオチがないのがほとんどやと思います
我慢して読んでくれたらうれしいなぁ
05月05日 桃