不出来の芸術

暁に新しく入ってきたデイダラの付き人、は少し変わった少女だ。

付き人と言う言い方は相応しくないかもしれないが、
つき合っているわけでもなさそうなので、付き人と呼んでおく。

何の戦力にもならない彼女を暁に引き込んだことで、リーダーは立腹しているらしく、
部屋を与えてもらえず、今はデイダラの部屋に居着いている。

ちなみに、ベッドはが占領しているらしい。
彼女がそれを堂々と公言していた。
既成事実はないぞ、という意味合いだろう。

透き通るような白い肌と、限りなく白に近い灰色の髪をした少女は、
一族という自分が今までに感じた痛みを記憶し、それを人に感じさせることのできる能力を持っている一族の末裔だ。
外傷はないが、精神面を深く傷つけたり、体を痺れさせ動けなくするなどは可能らしい。

また、彼女はなんらかの事情で痛みを感じない体質らしく、
よく流血に気がつかないまま走り回って、良識ある暁のメンバーに手当てされている。

は感情表現をあまりしない娘だが、ときおり見せる笑顔が魅力的で、大抵のメンバーは彼女をかわいがっている。

デイダラとの仲は未だよく分からないが、とりあえずデイダラの方はを溺愛している。
のほうはどう思っているのかは定かではない。
自分の感情をあまり口にしないからだ。

それでも、彼女は暁になじんでいると言えるだろう。



もう一度言う。
は少し変わった少女だ。



「…………」

少々きつい任務を終えて真夜中にアジトに帰ってきたオレと鬼鮫を向かえたのは、
ぼんやりと何かを抱えて地面に座り込んでいる白い髪の少女だった。

はつい、と顔を上げると、感情のこもらない目で鬼鮫を見た。

鬼鮫は肩に少し手傷を負っていた。
そこまで深い傷ではなかったで、鬼鮫は少しも痛がってはいないような傷だったのだが。
ぼんやりとその傷口を眺めた後、は言った。

「……ね、痛い?」

「…………」

何も答えず、鬼鮫は彼女の目を見返した。

「痛いって、どんなんだっけ。忘れちゃった」

忘れた……?

オレはその言葉に引っかかりを感じ、眉をひそめた。

「過去に感じたことはあるのか?」

「んー、あるよ」

はあっさりと答えた。

「いつだったかなー、3,4歳の頃までは感じてたよ」

「どういう経過で感じなくなったんですか?」

鬼鮫が聞く。

「えっとね、父さんが死んで、母さんが再婚して、新しい父さんが来たのよ。
その人が暴力ふるってきてさぁ、めちゃくちゃ痛かった気がする」

そう言ってはけらけらと笑った。

「じゃあ、そのショックで……?」

「ううん、近いけど違うよ。感じなくなったのはその後。
そのうち母さんも死んじゃってさぁ、新しい母さんが来たのよ。
そしたら、その人も暴力振るってきてさ、しばらくしたら何にも感じなくなっちゃった」

また笑う。

なにがおかしいのかわからない。

「それでさ、痛みは移せるのかなー、って思って、
実験に父さんと母さんに今までの痛み全部移してみたら、精神狂っちゃって死んじゃった」

またけらけらと笑う。
両親にはなんの未練もないらしい。

「アナタ、少しおかしいんじゃないですか……?」

鬼鮫が聞き、鮫肌に手をかける。
オレはそれを手で制し、に一歩近づいた。
彼女が手に抱えるモノに興味を引かれたからだ。

「ここにいる理由はなんだ?」

「えー、暁に、ってこと?」

「違う。ここで一人でいる理由だ」

は少し黙ると答えた。

「あぁ、デイ待ってるの」

「部屋で待たないのか?」

「あんな粘土くさい部屋、いても楽しくないもん」

どこか拗ねたように、彼女は答えた。
オレはまた引っかかりを感じて聞く。

「いつもはよく部屋にいるだろう」

「あの部屋は……」

は言葉を切って少し笑った。

「デイがいるから輝くんだよ」

さらりと。

なんとなく、オレは少し笑った。
鬼鮫が何ごとかとこちらを見てくる。

今の言葉をデイダラに聞かせたら、どんな顔をするだろうか。
少し見てみたい気がする。

「その手に持っているものはなんだ…??」

オレは聞いた。

「あぁ、コレ??なんだか知らないけど、デイの粘土細工の最高傑作なんだってさ」

オレはまた一歩彼女に近づいた。
は何も反応を見せないまま、言葉を続ける。

「モデルがいるらしいんだけど、誰かは知らない」

そこで言葉を切り、ふぅ、とため息をつく。
その人形を持ち上げ、自分ね顔より高くあげた。その姿はまるで、赤ん坊をあやすかのようだった。

「ホントに、誰なんだろ……最高傑作のモデル」

少し拗ねたようにそう呟くと、人形を地面に下ろす。
そこに近づいて行って、その人形をひょいと持ち上げた。
目の前に持ってきて、まじまじと見つめる。

コレは……心なしかに似ているような気がするんだが……。

本人はそうは感じていないらしく、まだぶつぶつと呟いている。
オレが彼女を慰めようと手を伸ばしたとき、急に騒がしい声がした。

「おいッ。てめぇ、オレのに触んな、うんッ!!」

デイダラはそう叫んで飛んできて、オレの手から人形を奪い取った。

「は……??」

呆気にとられてがデイダラを見た。
意味が分からない、といった表情をしている。
サソリも呆れた顔で現れた。

「それが、……??」

「そうだ!!…うん!!オイラの、爆発しない芸術の最高傑作、だ!!」

は静かに瞬きを繰り返していた。
そして一瞬フッと笑ったあと、言った。

「……あたしそんなに不細工じゃないんだけど」

それはきっと、少し赤くなった頬を隠すためだろう。

デイダラもそれに気付いているようでの言葉には何の反応も示さず、の肩を抱いた。
そのまま歩きだしながら、デイダラはに話しかけた。

「なぁ、やっぱりベッドは一日ずつ交代でつかわねぇか…うん??」

その言葉を聞いて、ところで、とサソリが聞いた。

「どういう経緯でベッドの所有権が決まったんだ??」

「それはだな……うん」

少しいいにくそうにデイダラが口ごもった。

「あたしは別にここにいたいって訳じゃないから、ベッドもらえないなら家に帰る、って言っただけだよ」

デイが無理矢理連れてきたんだしね、とが笑った。

本当に、彼女はデイダラがいるとよく笑う。

なるほど、と鬼鮫が呟いた。

「結局、はオイラがいなくてもなんともないんだよな、うん」

少ししょげているデイダラに、はえ、だって、とあどけない表情を見せた。

「あたしが家に帰ったとしても、デイは会いに来てくれるでしょ??」

あぁもう、とデイダラは頭を抱える。

「可愛すぎるぞ、うん!!」
そう叫んでに抱きつくと、そのまま自室へと帰っていく。

後に残されたオレたちはぼんやりと二人の後ろ姿を眺めていた。

「結局のところ……あの二人付き合っているんでしょうかね??」

鬼鮫が呟くが、誰もその質問に答えることはできなかった。

不出来の芸術 2

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あとがき
またオチないです。
もうだめだわ
なにが書きたいのかわからん。
後半に期待してください。
当分後だけど。

05月05日 桃

05月14日一部修正