不出来の芸術

彼女が花火を見に行ってから後、の生活は常に平穏だった。
オレ達は、ずっとアジトにこもっているのもなんだから、またいつか任務がないときにあいつを連れ出してやろうと考えていた。
そして、今日、その日がやってきたのだが。

……やめた方がよかったのかもしれねぇな。

ベッドに突っ伏して項垂れているデイダラを見て、オレはそう思った。




オレとデイダラはをアジトのそばの草原に連れて行くことにした。




「みてみて、サソリさん!! 四つ葉のクローバーっ!!」

無邪気に笑って、それを見せつけてくる。
そこまで老いた自覚はねぇが、娘とか孫を見ているような気分だ。

一方、四つ葉を発見したという報告を受けなかったデイダラは一人で拗ねていた。

ふん、いつもべったりなんだから、たまには離れていればいいんだよ。

、ちょっとこい」

手招きをしてそう言うと、とてとてとやってきた。
また転んだらしく、膝から血が出ている。

「ほら、これやるよ」

有無を言わせず、彼女の頭にそれをかぶせる。
は、一度頭からそれを取り外して、見てから嬌声をあげた。

「すごーいっ。花冠??」

「あぁ。シロツメクサがいっぱい生えてるからな」

にこにこと笑いながら冠をかぶり直す。
普段白と赤しか身につけていない彼女に、草の色がついた。

「…………」

じとーっと、デイダラがこちらを恨みがましそうにみているが、知ったこっちゃない。

まぁ、あいつの反応がおもしれぇっつーのも、オレがに構う理由の一つでもあるがな。

きっとはそれに気づいている。その上で、彼女もデイダラの反応を楽しむためにわざとオレに愛想をふりまくんだろう。
確かに、悪い気はしねぇけどな。

「ありがとね、サソリさんッ!!」

大きな声で礼を言って、は遠くへ駆け出していく。

さて、オレは何をするかな。

手持ち無沙汰に周りを見回すと、デイダラがゆっくりと近づいて来ていた。

「何の用だ??」

「…………」

何もいわずにオレのよこに腰を下ろす。

「旦那は……さぁ」

「あぁん??」

俯いている。

普段のこいつからは想像できねぇ姿だな……。
この前と二人で出かけていった後は、えらく上機嫌だったんだが??

「——き」

「ぎゃあぁぁあッ!!!」

デイダラが口を開いたそのとき、遠くの方から聞き慣れぬ男の叫び声が聞こえてきた。

の行った方だッ!!うん!!」

血相を変えてデイダラが立ち上がり、駆け出した。
オレもヒルコを走らせる。

少し走ったところに、はいた。

「う……うあぁあっ」

足を抱えてのたうち回る男が一人。
その後ろから現れた男が二人。
そして。

「お前……あし……」

「あ、デイ」

あっけらかんと、こちらを向く彼女の左足は、太ももの真ん中あたりから下が存在しなかった。
純白のワンピースだったものの裾が、紅く染まっている。
その少し先の、男が倒れているそばにロウ細工のように白い脚が落ちており、切断面から血が広がっている。

「ごめん、なんか気がついたら足切られちゃってた」

デイダラがに駆け寄る。

「バカじゃねぇか……お前……うん??」

「お前ら……暁か」

後からやってきた男が呟く。
その言葉で、オレは全てを悟った。

スパイ、だな??

「お前ら、どこの里の忍だ??」

相手がびくりと肩をふるわせ、臨戦態勢に移った。
一人はまだ足を押さえ、呻いている。

「何があった?? ……うん??」

小さくデイダラがそう聞くと、が答えた。

「わかんない。切られたから痛みをお返ししたら倒れちゃった」

まったく、やってくれるぜ。

後ろの会話を聞きながら、オレは薄く笑った。
とはいえ、ヒルコの中だから他者には見られていねぇが。

「大方、暁のことでもスパイしに来たんだろうが、あぁ??」

すごみを聞かせてそう言った後に、相手の額を見る。

……ほぉ。これは……ちょっとまずいんじゃねぇか……??

デイダラが額当てに目を向け、顔色を変えた。
から手を離して立ち上がる。
不自然に笑っている。

「土隠れか……うん?? 後輩じゃねぇか……。後輩の分際で……」

あーあ、あいつ、キレてんな。

がいそいそと後ずさりをして、オレの後ろに隠れる。
片足なので、動きにくそうだ。

粘土を取り出し、一人用の鳥を作り出すと、デイダラはそれに飛び乗った。

「先輩の女に手ぇだしてんじゃねぇよ!! うん!!」

別に女になったつもりはないけどね、とが小さく呟いた。
しかし、もちろんデイダラには聞こえていない。

「あーもー、めんどくせぇなぁ……」

そう呟きながら、オレは毒針をとばした。
上空から起爆粘土が落ちてきて、爆発する。

でもまぁ……を傷つけたんだから、それ相応の報いを受けてもらわなきゃなぁ……。





勝負は、あっけなくついた。

「ったく、こんな弱っちぃ奴らスパイに出すなんて、暁なめてんじゃねぇか??
傀儡にする価値すらねぇぜ」

死体を蹴り飛ばして、遠ざけた。

、大丈夫か……うん??」

「ん。多分大丈夫だよ」

そうは言っているが、あまり大丈夫ではなさそうだ。
ただでさえ白い肌が青白くなっているし、まくれたスカートの中からは、赤くぬれた太ももが……。

「わぁあッ!! 旦那、旦那はみるなッ!! うん!!」

いきなりデイダラがを抱き寄せて足を隠す。

「お前はいいのかよ……」

「オイラはいいんだよ!! うん!! いつも見て……げふっ」

鈍い音をあてたあと、デイダラがあごを押さえた。
が彼をグーで殴ったのだ。

「変態」

「…………」

無言でにらみ合う二人をよそに、オレは脇に目をやった。

「終ワッタカ……??」

「……ゼツ」

ゼツは静かに死体を見下ろした後、言った。

「こいつらは、オレらが始末しとくよ」

「オ前ラハ、アジトニ戻レ……」

「言われなくてもそうするつもりだがな」

そう返事をして、オレはの足を取りに行く。
白い足を掴む直前で、デイダラが止めに入った。
首に手を回しているを、片手で抱いている。

まったく、中のいいことだな。

の足はオイラが持つ…うん。それに触っていいのは、オイラだけだ」

「だから、変態って言ってるでしょ」

がデイダラの首から手を離し、その頭をペシンと叩いた。

「いって……」

とデイダラが声を上げる。
そう痛そうにも見えないので、遊びの一つなんだろう。

何はともあれ、デイダラがの足をつかんで、持ち主に渡した。

「………」

自分の足をみつめる赤い目に、不安の色が浮かんだような気がして、オレは安心させる ように言った。

「その足は、角都につないでもらえ。そのうちに使えるようになるから」

「……ん」

小さく頷いた後、は急に目を閉じ、デイダラに体を預けた。
顔色を変えて、デイダラが叫ぶ。

っ!? おい、ッ!!」

「うるせぇ奴だな……出血多量で気ぃ失っただけだろうが」

そう言ってデイダラを軽く睨む。
彼は地面にすわりこんで、意識を失ったをを草の上に寝かせた。
途方に暮れたように頭を抱えると、小さく漏らした。

「なんで、旦那はそんなに冷静でいられるんだ……うん??」

「……お前が、感情的すぎるだけだろうが」

呆れを含んだ目でデイダラを見やる。
柄にもなく項垂れて、デイダラは呟いた。

「やっぱり、オイラはだめだな…うん……」

「そうかもな。……オラ、とっとと行くぞ」

同情してやる気も、慰めてやる気もさらさらなかった。
動こうとしないデイダラの脇を通って、を抱きあげる。
すぐそばに落とされていた足は、デイダラに投げた。

力なくそれを受け止めると、のろのろと鳥に上る。
もう一体同じものをつくると、それに乗るように指示してきた。

完全に、まいってやがるな……。

今ならこいつも、ものの数秒で殺せるに違いない。

物騒なことを一瞬考えた後に、オレも鳥に上ってアジトへ向かった。





薄暗い中で、あたしは目を開いた。
嗅ぎ慣れた粘土の臭いが鼻をくすぐる。

「……デイ??」

今までに何万回と口にした名前を呼んだ。
視界の端で人影が動く。
ベッドに突っ伏して眠っていたらしいデイが、頭を上げた。

「起きたのか……うん??」

「うん。……あれ、足つながったんだ」

左足を軽くあげる。

すごい、もうつながってるよ。

「角都さんにお礼言わなきゃね」

「あぁ、そうだな……うん」

あたしは軽く瞬きをした。
彼の口ぶりが、いつもと違ったからだ。

「ね。なんかあったの?? なんか……すごく落ち込んでない??」

眉をひそめてそう聞くと、デイが肩を震わせた。
月にかかった雲が薄れたのか、部屋に月明かりが差し込む。

「別に……何もねぇけどよ…うん」

嘘だ。

「目が、泳いでるんだけど……??」

「………」

きまりが悪そうにそっぽを向く彼を、問い詰めるように睨んだ後、少し表情をゆるめた。

「……なんて。どうせ、あたしを守れなかったーなんて言って責任感じてるんでしょ」

「………」

また無言。
それでもその視線が肯定の意を示していた。

「ね。デイ。一つ約束して」

デイがこちらを向いた。
まだ力のない目だ。

そんなデイ、見たくないんだけどな。

「もし……さ、あたしが今日みたいに傷を受けて、死んじゃっても、デイはずっと笑ってて??
あたしは、元気なデイが好きなの。
今みたいに落ち込んでるデイなんか見てたら、きっと成仏なんてできないよ」

それを聞いてデイは、少しだけいつもの表情に戻ると、言った。

もだ……うん。
もしオイラが死んでも、ずっと笑ってろよ。
オイラも、の笑顔が好きなんだからな…うん」

「約束、する??」

「約束する……うん」

小指を絡めて誓った後、デイは少し元気を取り戻したようで、ニカッと笑っていった。

「それに、あれだ……うん!!
もしオイラが死んでも、すぐに生まれ変わってを見つけてやるから……」

「ん。待ってる」

あたしが頷くと、デイはもぞもぞとベッドにもぐりこんで来た。
その横腹を、右足で蹴る。

「なんでだよっ、うん!! いいじゃねぇか、今日くらい!!」

「だってデイ絶対なんかしてくるもん」

「………チッ」

まったく、油断も隙もない。
なおもすりよってくるデイの顎を押しのけながらあたしはげんなりとした顔を見せた。


すぐにつけあがって調子に乗るから、男は嫌なんだ。
まぁ、そういうところも好きなんだけど。

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不出来の芸術 4

あとがき
主人公性格変わりすぎ。
ごめんなさいです。
次がんばりますです。
あたたかく見守って……ッ((願望

05月31日 桃