不出来の芸術

大蛇丸とカブトさんがどこかに出かけていたかと思うと、突然帰ってきた。

あたしがここに来てからもう数年がたつので、あの人たちが出かけることは別に珍しいことでもなかった。
けれど、ヨロイやキン、ミスミなどまで同時に出かけることは非常にまれだ。
大抵の場合、捨て駒としてヨロイたちのみで行くか、大事な用で大蛇丸たちがいくかのどちらかだ。

一体何があるのかと多由也に聞いたらフンと鼻で笑われた。

「てめェ、そんなことも聞かされてねェのかよ。呆れたもんだな」

……年下のくせに生意気だ。

じとーっと多由也を睨むが、多由也は少しも意に介せずに続ける。

「大蛇丸様の次の器に、呪印を付けにいってんだよ。
あっちじゃ今中忍試験やってるから、その後で砂と組んで木の葉を潰すとか聞いたけど??
……つーか、それくらい知ってろよな」

「だって、大蛇丸の器なんて興味ないし」

木の葉なんてもっと興味ないし。

あたしがそう答えると、今度は多由也がこちらを睨んだ。

あぁもう、これだからアジトの人間は嫌なんだ。
少しでも大蛇丸を愚弄したらすごい顔で睨まれる。

まぁ、多由也は一番仲のいい友達だから特に気にはしないんだが。

、てめーはもう少し大蛇丸様に敬意を払うべきだ。
ここで敬語を使ってねぇのはてめェくらい、クソアマ!!
そのうち殺されんぞッ!!」

「別にいいもん、殺されても」

あたしはあっさりと言う。
そこまでして大蛇丸に媚びへつらう理由がない。

しかし、多由也はさらに眼光を鋭くした。

「ふざけたことぬかしてんじゃねーよ、タコ!!
てめェはまだ死ぬべきじゃねぇよ。
待ってるヤツがいるんだろーがっ」

「……そうだったね。ごめん」

ケッと毒を吐いて多由也はそっぽを向いた。

あたしとデイのことをアジトの人間で一番よく知ってるのは多由也だ。
まぁ、盗聴されていたらどうしようもないけど。

初めて彼女にあったときは、たくさん衝突した。
そのたびに幻術を見せられたし、あたしもさんざん痛みを移して苦しめた。
何度もぶつかった末、今こうしているように穏やかな関係になることができた。

「なに笑ってンだよ、キモイヤツだな」

「んー、ちょっとさぁ。あたしたちも仲良くなったよねーって思って」

にっこりと笑ってそう答えると、多由也もニヤッと笑った。

「まぁな。最初のころはしょっちゅう戦ってたな」

「ねー、多由也も、容赦なかったね」

「……左足切り取られた時の痛み移してきたのはてめーだろーがっ!!」

恨めしげに多由也がそう言ったとき、部屋に誰かが入ってきた。
その人物を見て、多由也が表情を硬くする。

「大蛇丸様ッ!!」

「楽しそうね、二人とも」

あたしがいたくもないのにここにいる、最大の原因がにっこりと笑った。
底はかとなく機嫌がいい。
呪印をうまくつけられたのだろうか。

いや、そんなことではここまで機嫌よくなりはしない。

「……そう??」

適当に返しておくと、大蛇丸が眉をひそめた。
多由也がこちらを睨む。

警告しただろ、と言いたいのだろう。

「あなたは、いつになっても無礼ね……。まぁ、そう言うところも嫌いじゃないわ」

指先であごをつままれ、ついと上を向かされる。
ふいにその指を離し、多由也の方を向いた。

「多由也、四人衆の一人として、木の葉潰しの時は一緒に来てもらうわよ」

「……はい」

多由也が真剣な顔で頷く。

その顔を眺めながら、あたしはむぅと頬を膨らませた。

まぁ、ここにいる人間は実験体以外、みんな大蛇丸狂だから当然の反応なのだけれど。
やっぱり、多由也の敬語は落ち着かない。
デイが敬語を使うのと同じくらい、違和感がある。
……多由也とデイって、結構似てるしね。

「器って、どんな人なの??」

あたしは聞く。
すると、大蛇丸は楽しそうにのどを鳴らした。

「うちはサスケって言う子でね……。あなたも知ってるうちはイタチの弟よ」

正直、あたしは驚いた。
まさか、イタチ兄さんの弟を器候補にしようとは。

血ぃみるよ、この人。

あれ、でもイタチ兄さんは弟のことが嫌いなのかもしれない。
よく分かんないけど、難しそうだ。

「年は12歳でね。けっこう顔もいいわよ。アナタの恋人にどうお??」

クックックッと、嫌な笑いを漏らす。

そりゃあ、あのイタチ兄さんの弟だから顔はいいだろうけど。
――冗談。

「遠慮しとく。年下には興味ないから」

「あら、そう。残念だわ。おもしろそうだと思ったのに」

多由也がフンと鼻を鳴らした。

本当におもしろそうだと思ったのだろう。そう言う顔をしていた。

まったく、冗談じゃない。
デイ以上にかっこいい人なんか、いるわけないのに。





多由也は無事に帰ってきた。
多由也は……だが。

何人かは死んでもどってこなかったうえ、木の葉崩しは失敗。
しかも、大蛇丸は両手が使い物にならなくなった。

「ま……仕方ないよね」

廊下を歩きながら呟く。

木の葉といえば忍五大国の中でも一番と言っていいほどの強国だ。
それを潰すなんて、安易に事が進むはずがない。

一室の前で足を止め、扉をノックする。

するとすぐに、くぐもった声が聞こえてきた。

「入りなさい」

言われたまま中にはいると、いすに腰掛けた大蛇丸が、痛みに顔を歪めながらこちらを向いた。
両手はだらしなく地面に向けて垂れ下がっている。

「はやく、アタシの痛みを移してちょうだい」

「そんなに痛いの??」

その腕を手に取り、痛みを自分に移しながらあたしは問いかけた。
大蛇丸のその表情が、穏やかなものに変わる。

「えぇ。三代目め……。余計なことをしてくれたわ」

「……」

どうやらその三代目とやらにやられたようだ。
何があったのか知らないけど、暁がらみじゃなければ興味はない。

「全ての痛みは移せそう??」

そう問いかけられる。

というのも、一度に移せる痛みには限度があるからだ。
軽いケガなら完治するまでの間の痛みを全て移せたりするが、重いケガならせいぜい二時間ほどの痛みしか移せない。
もちろん、今の大蛇丸のケガは、重いケガ。
ケガというよりは呪いと言ったようなものなので、そう簡単にはいかない。

「無理、だね。定期的に移しにはくるけど……。
もし、あたしがいなかったらカブトさんでもよんで、これ使って」

そう言って手袋に突き刺してあった千本を数本、抜き取った。
指の間にはさみ、チャクラを通す。

「知らない間に、服が替わっているじゃない。前は白いワンピースだったわよね??どうしたの??」

「……別に。小さくなったから替えただけ。本当は替えたくなかったんだけど」

これは、デイがくれたものだから。

そう言おうとしてやめる。
この人にそんな話をする意味がない。

へぇ、と興味もなさげに呟いて、今度は千本に目を向けた。

「その便利道具は?? ただの千本ではなさそうね」

さすが、よくみてる。

あたしは密かに感心した。
千本を脇に置いて説明する。

「チャクラ千本みたいなもの。カブトさんにチャクラ問うの説明を聞いたときに思いついたの。
チャクラ刀と同じ金属でできた千本に痛みをこめて、それでツボを打ったら一石二鳥でいいかなーって。
それの用途を逆にしただけ。
適当な場所に刺したら、痛みを吸い取ってくれる。
あとであたしがもらうけどね」


「へぇ。結構賢いのね。
この前、遠視鏡とか作ってなかった??」

「うん。あれは……昔作ったものをもう一度作ってみただけ」

デイにあげたものの、改良版だ。
あまりにも暇だったので、性能を上げて作ってみた。
今、あたしが使っている。

話すだけ話すと、あたしは大蛇丸の腕を放して踵を返した。

「また、くるから」

「えぇ。……まぁ、アタシもほかの手は打っておくから、もしかしたら必要ないかもしれないわ」

「……そう。それならそれでいい」

早々に部屋をでて、多由也の元へと急ぐ。
あの部屋にいると息が詰まる。

首元にあるペンダントをぎゅっと握った。

デイ……。

会って、話をしたい。バカ話をして、笑われて、すねてみせて、ぎゅーってしてもらいたい。

あのときのあたしの判断は、間違っていたのだろうか。
――あっていたと、信じたかった。

もし、あの手を離さなければ、あたしは今頃デイを笑っていたのだろうか。

あたしは、あの手を離してはいけなかったんだろうか。

不出来の芸術
 その7

Next

あとがき
わーなんかわかんないことになっちゃいました
わーわーわー
なんでいきなり主人公こんなこと考え出すんだよまったく。
勝手に行動するんじゃねぇ!!
とりあえず、長い間更新停滞していたこと、大変申し訳ありません
これからも停滞すると思います((オイ
月一くらいでは更新すると思うので、どうか見守ってやってください
07月22日 桃