不出来の芸術

「あれ、多由也は??」

多由也の部屋に行ったが誰もおらず、あたしはすぐそこを通りかかったカブトさんを捕まえて聞いた。

「四人衆は、あっちでサスケくんを迎えに行く準備をしているよ」

特に用があるわけでもなかったのだが、適当に話をしようと思っただけだった。……最初は。
でも、うちはサスケを迎えに行くと聞いて気が変わった。
なんだか胸騒ぎがする。きっと何かが起こる。

例え止めることはできなくても、遺言くらいは聞いておこう。

今の木の葉の里長は大蛇丸の腕さえも治さずに、その上カブトさんにまで深手を負わせて帰らせるような冷たい女だったはずだ。
きっと木の葉には血も涙もない巨漢や猛女がたくさんいるに違いない。

そんなところに多由也が行って、生きて帰ってこれるはずないじゃないか。
……あたしの想像がほとんどだけど。

やがて大きな広間に出た。
樽のような物を担いでいる次郎坊と目が合う。

「……ね、それ、酒樽??」

「何しに来やがった、ッ!!」

次郎坊が返事をする前に、多由也の怒号が飛んできた。
あたしがそちらを向くと、こっちにつかつかと寄ってきた。

「油売りに来たなら帰れよ、クソアマ」

「……多由也、口が……」

「うるせーデブ」

いつも通りのやりとりをしている二人に向かって、あたしは笑いかけてみせた。

「いや、今のうちに遺言をきいといてあげようと思って」

「はぁっ!?」

予想通り更に声を荒げられた。

「ウチはそう簡単に死にやしねーよ、バーカ。
それにな、もし死んだとしても、それが大蛇丸様のためなら何の悔いもねぇ。
ウチに力を与えてくれたことに対する恩返しだ。
遺言なんてあるわけねぇだろ、ゲスがッ!!」

「………」

なんておもしろくない。

あたしはぷぅと頬を膨らませた。

昔はこの顔をする度にデイがあたしを抱きしめてくるのでよくやったものだ。
久しぶりにやったような気がする。

「つまんない人生送ってきたんだね」

「……んだと、クソアマ!!」

「せいぜいがんばって生き残ってねー。んじゃ、あたしは修行に行ってきます」

ひらひらと片手を振って歩き出す。
背後で多由也がぶち切れた音が聞こえたが無視。

怒らせておけば、きっと意地でも生き残るだろう、多分。

もう、あたしにできることは祈ることだけだった。





「ね、遅くない??」

腕の痛みを移すために大蛇丸の部屋に入るとカブトさんと大蛇丸、二人がいた。
二人に聞くと、大蛇丸が恨めしげに答えた。

「えぇ。本当に。……おかげであたしがどれだけ苦しんだことか……」

「違う。そーじゃなくて、あたしが遅いんじゃなくて。――多由也とかのこと」

カブトさんがなるほどと呟いた。

とりあえずあたしは大蛇丸の腕を持って、また痛みを移し始める。

「もうそろそろ着いてもいいんじゃないの??」

「……本当にね。遅すぎるわね。全く役に立たない奴らばっかり」

大蛇丸が答えた。対して気にしていない口ぶりだ。

「大丈夫だよ、君麻呂をやったから、サスケくんはくるさ」

「……そーじゃなくて」

うちはサスケが心配なんじゃない。多由也が心配なんだ。
あたしは大蛇丸の腕を下ろして聞いた。

「ね、様子見に行っていい?」

「駄目よ」

即答されてしまう。なんでだ。
思わず唇を尖らせた。

やれやれと笑いながらカブトさんが言う。

「君が逃げるかもしれないからさ」

「逃げないって言っても??」

「証拠がないよ」

あたしはカブトさんを睨んだ。
だが、カブトさんはにこにこと笑ったままだった。

「………」

少しためらった後、ペンダントを首から外してカブトさんに突き出す。
怪訝気な顔をしながらカブトさんはそれを受け取った。

「あれ、あたしが命の次に大事なもの。それを預けるから、行かせて」

この人たちにとって多由也の命など大した重みはない。
けど、あたしにとってはただ一つのこの場所での安らぎなんだ。
助けられはしなくても、死体くらいは持ち帰ってちゃんと埋めてあげたい。

大蛇丸が楽しそうに鼻を鳴らした。

「いいわよ、そんなに言うなら行ってきなさい」

「大蛇丸様っ!!」

カブトさんが慌てて声を荒げた。
大蛇丸はその声を無視して続ける。

「その代わり、アタシを裏切ったら殺すわよ」

「うん、分かってる。……ありがと」

それだけ言うと踵を返す。

ポケットから遠視鏡を取り出し、左目に装着させた。

「あぁ、。これをつけて行きなよ」

そう言って後ろから何かが飛んできた。
咄嗟にそれを受け止める。それは、白い面だった。

「どうして??」

「もし万が一木の葉の奴に会って、顔を覚えられたら面倒だからね」

………。

そう言う物だろうか。
よく分からないが、言われるならつけておこう。

遠視鏡の上からそれを被ると、変な感じがしたので、遠視鏡は外しておいた。
使うときだけ見ることにしよう。

部屋を出て、廊下を走った。

急がなくちゃいけない。
もし多由也が負けて死んでたりしたら、その死体を研究のためとかで持って帰るかもしれない。
呪印とかの研究で。

アジトを出ると真っ先に高い木に登った。

面を外して遠視鏡をつけ、下を眺める。

「……終末の谷、では…なんかやってるね」

おそらくあの二人のうちどちらかがうちはサスケだろう。
まぁあたしにはどうでもいいことだ。

更に木の葉よりの方に目を向ける。

「えぇっと……砂漠??」

あんなところに砂漠なんてあったっけ。

首をかしげるが答えは出ない。
あまり外に出ないので分からなかった。

とりあえず、君麻呂らしき人影と……なんか怖い人と変な人が戦っていた。

正直、何の集団なのかわからない。

更に木の葉よりに目を向けようとして、あたしは目が点になった。

「風……??」

何かあったのだろうか。

木がどんどんなぎ倒されていく。
なにがなんだか。

「あっ」

一瞬、多由也が見えた気がした。

この遠視鏡では髪の色とかしか確認できない。
目の周りの濃いクマとか、不思議な髪型とか、そういうのはギリギリ判別できるのだが。

もっと性能のいい物を作らなければいけない。

「えぇっと、あっちの方向だよね」

再度遠視鏡で確認をする。

……参ったな。
最短距離の途中に、ちょうど終末の谷がある。
遠回りをするしかないか。

それでも、五分もあれば着くだろう。
余談になるが、いたみ一族のスピードはすさまじい物なのだ。
昔はチャクラ刀なんてなかったのだろうから、痛みを移すには直接体の一部を敵に触れさせなければいけない。
そのためにどんな忍よりも速く動けるスピードが必要だったのだ。

今は、チャクラ千本とかあるけどね。

遠視鏡を取り外し、面をつけ直す。

――さて、行きますか。





わりと早く着いた。
多由也は木の下敷きになって倒れていた。
正直、生きているのか死んでいるのかわからない。
すぐにそばに行って確かめたかったが、できなかった。

なぜなら、まだ敵がいたから。

「………」

あたしと同じくらいの年の女があたしを鋭く睨みつけた。

無理もない、いきなり面を被った女が現れたら誰だって警戒するはずだ。

その女の後ろにたっている男はまだ子どもだった。
十二、三歳くらいだろうか。

「……お前、大蛇丸の手下か??」

男の子の方が聞いてきた。

どうしよう、どう答えるべきか非常に悩む。
実質手下のような物なんだけど、それを認めるのはすごく癪だ。
とりあえず、

「そんなものかな」

と答えておく。

「そっちは……木の葉??」

今度はあたしが聞くと、女の方が答えた。

「こいつはそうだ。……私は砂の忍だ」

「………巨漢じゃないのか」

「……は??」

「いや、なんでもないです」

つぶやきが漏れてしまっていたようだ。
慌てて頭を振ると女は眉をひそめた。

「あ、念のため言っておくけど、攻撃の意志はありません。だからそっちも攻撃しないで」

「……どういう事だ??」

男の子の方が聞いてきた。

どうでもいいけどあの子、おもしろい髪型してるな。
まぁ楽そうではある。

「オレ達を倒しに来たんじゃねーのかよ??」

「いいえ、決してそんなことは。ただ、そこに転がってる女子の生死を確認しに来ただけで。
あ、ね、この人生きてる??」

女がまだ警戒を解かずに答えた。
腕を胸の前で組んでいる。

「知らないな。自分で見てみたらどうだ」

「うん、そうするつもりだけどさ……。っと」

急に地面を蹴って、男の子の真後ろに立った。

男の子がびくりと肩を震わせてこちらを振り向く。

「いつの間に……っ」

その手を勝手に取って、腫れている指を掴む。
途端に相手の顔が歪んだ。

「痛……ッ」

「あ、ごめんね」

一応謝って、あたしはその指に意識を集中させた。
彼が感じている痛みを、全て自分に移す。
これからそのケガで感じることになる痛みまで。

移し終えた後、すぐにあたしは手を離した。

男の子が不思議そうに自分の指をしげしげと眺める。

「痛み、とっといたから。あ、でもケガはしてるからちゃんと治療はしてもらってね」

二人ともが、意味が分からないといった表情をした。
それを無視してあたしは面を外す。
もちろん、顔を背けながら。

遠視鏡を左目につけて近所の林の中を見た。

「ゲッ」

そこで見たものに思わず声をあげる。

十数人の忍がやってきていた。しかもすぐそこまで。

急いで遠視鏡を取り外し、面を被る。

「ごめんなさい、多由也みてる場合じゃないわ、帰ります!!」

それだけ叫んであたしは飛んだ。
多由也には悪いけど、あたしは自分の身が可愛い。

成仏してくれッ。

「あっ、おいっ」

男が叫んだ気がするが無視。
どうせ追いつけやしない。





追いつかれた。
男の子にじゃない、男に。

ただちょっともう少し待ったら、多由也の身柄を置いて帰ってくれやしないかと思って引き返したのが悪かったのか。
気がついたらさっき見かけた忍達が終末の谷付近まで行っていて、そのまま戻ってきていた。
生憎通れそうな場所はとても狭く、ばれないようにすれ違うのはとても無理だ。
でもすごい速さで走ったら速すぎて追いかけるのを諦めてくれないかと思っただけだった。

……甘かった。
気がついたら目の前にこの、銀髪の男が立っていた。

しかもまた木の葉の忍だ。
不思議な形の額宛で左目を覆っている。

ケガでもしたのかな。

男はにっこりと笑った。
つられて、面をつけているというのにこちらも笑い返す。

「ねぇ、キミ、どうしてこんなところにいるのかなぁ??見た感じ女の子だよね??」

「……また巨漢じゃない……」

「はい??」

またもや怪訝気な顔をされる。
口に出してしまっていたようだ。

それにしても、なんでこんなに予想と違うんだ、木の葉の忍は。
みんなヒョロヒョロのもやしみたいだ。
でも、あたしはそのもやしにあっさり追いつかれた。

「筋肉の問題じゃないってこと??」

「……何を言ってるのか知らないけど、とりあえずその面、外してもらえないかな。
それと、聞きたいこともたくさんあるんだよね」

どうしようか真剣に悩んだ。
別に外してもあたし的にはなんの問題もないのだが、大蛇丸になにか言われると面倒だ。
かといって今この状況で外さないでいられる策が見いだせない。

「……もし言うこと聞けないなら、こっちで勝手に外させてもらーうよ??」

変なのばし方をする人だ。

のんきなことを考えているうちに手が伸ばされていた。
咄嗟に面を抑えるが、相手も面の端っこをつかんでいた。
ここから先は力での勝負だ。

もちろん、あたしなんかが大の大人の腕力に叶うはずがない。

男の人は面よりもまず、あたしの腕をつかんだ。
強い力で手首を抑えると、空いている方の手で面に手をかける。

あっさりと、面は外れた。
だけど、次の瞬間、相手の動きが一瞬だけ止まった。
あたしの手首にかかる力も弱まった。
その隙にあたしは相手に軽く痛みを移し(タンスの角に小指ぶつけたときの痛み)、隙をついて逃げ出した。

どうしてあの人があたしの顔を見て動きを止めたのかは分からないけど、きっと写輪眼と見間違えたりしたのだろう。
……ドジな忍もいたものだ。

とりあえず、なんであたしがもっと早くに相手に痛みを移さなかったのかが、自分でも分からなかった。

関係ないけど、今日が大蛇丸のアジトに来てからの初めての実践だった。
どうでもいいなホント。

あたしはデイにもらったペンダントが待っている、アジトに向かって走り続けた。





「………」

カカシは一人で林の中に座り込んでいた。

いけない、すぐに戻るからとナルトを他の忍に預けてきたんだった。

我に返って立ち上がる。
小指の痛みは消えていた。

なぜあのとき、急に小指が痛くなったのかは分からない。
それに、別に痛くなったところで、あの女の子を追いかけられないほどではなかった。
それでも追いかけなかったのはなぜだろうか。

あのとき、急に動きを止めてしまったのはなぜだろうか。

ただ、彼女の冷ややかにもとれる瞳の赫い色を見た瞬間、体に電気が走ったような気がしたのだ。

「一目惚れ……って、やつかな……」

なんとなく呟いてから、その言葉の意味に気づいて自分でも驚いた。

あの子はまだ少女と言えるような年だったはずだ。
オレって、ロリコンだったっけ……??

「――アスマに、笑われそうだな……」

不出来の芸術
 その8

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あとがき
カカシが出ました。
勝手に惚れました。
サスケが微妙にでました。
リー変な人扱いされました。
我愛羅なんて怖い人です。
テマリなんて『女』だし、シカマルだって『男の子』です。
なんか少し前のあとがきに書いたこととだいぶ違う展開になってしまいました。
カカシキャラ崩壊中。
なんかきもいぞこの野郎。
すいませんがんばります。
07月26日 桃