不出来の芸術

「あれ……?? もしかして、うちはサスケ…??」

不意に女の声が聞こえてきて、オレは驚いて声のするほうを見た。

そのときオレは姿形がだいぶ変わった大蛇丸とカブトと、話をしていた。
決して辺りの気配を探ることを怠っていたわけではない。

それなのに急に声が響き、そいつは姿を現した。

かるい音を立てて地面に降り立った(ように見えた)その女は、
銀に近い白い髪、それでもカカシとは又違う雪色の長い髪を持っていた。
年を取って変色したようなものではなく、艶やかな髪だ。
……まるで、絹のようだった。
燃えるように真っ赤な瞳は、その色とは裏腹に何の感情も宿していなかった。
身長はオレより少し高いくらいで、顔立ちからして二~三歳の年の差だろう。

その女はにっこりと、胸くそ悪くなるような作り笑いをみせて言った。

「ようこそいらっしゃい。狭苦しいところだけど、ゆっくりしていってね??」

……余計なことを言うんじゃない」

カブトが呆れたように言う。
すると、と呼ばれた女は本心からといった様子で笑った。
しかしそれもくすりといった静かなものだ。

「あは、ごめんなさぁい」

「ところで、多由也はどうだったの??」

多由也という言葉が指している人物に思い当たって、オレは瞬きをした。

あの四人組の中の一人だな。

「んーと、なんか木の葉の人が連れてっちゃった」

「……それは残念だったね。それじゃあ、これを返そうか」

対して残念とも思っていない様な表情で、カブトは鎖のついたものをとりだした。

あれは……ペンダントか??

女は何も言わずにそれを受け取ると、まよわず首にかけた。
そしてそのペンダントの飾りの部分をなにやらいじってふたを開けた後、愛おしそうにそれを眺めた。

「………」

その横顔に、思わず見とれてしまったなどとは、言えなかった。

数秒間の間そうしたあと、女は歩き出した。
すると、大蛇丸が急に声をかける。

。察しのとおりこの子がサスケくんよ。……アタシが言っていたとおり、見目いいでしょう??」

いきなり何を言うのかと思った。

見目がいいと言われたことは何度もあった。が、こうも堂々と目の前で言われたのは初めてだ。
だが、不思議と嫌な気持ちはしなかった。

女はゆっくりと振り返って、たん、と地面を蹴った。
次の瞬間、目の前に女がいた。

速い……っ!!

思わず目を見開いたところを、まじまじと見つめられる。
頬が赤くなるのを感じた。

「………」

女は意味ありげに笑うと、Vサインを作った。

「ふつーにね☆」

そのままかき消すようにいなくなる。
遠くの方で地面に降り立つ音が聞こえた。

今のは、跳んだのか??

速すぎる。写輪眼でも見切れるか分からないような速さだ。

「ふつーに、ねぇ……。やっぱり一番は『彼』なのね……」

大蛇丸が呟いて、どこかに歩いていく。
『彼』というのが気になったが、とりあえずオレはカブトの方を向いて聞いた。

「あの女は??」

「……。大蛇丸が暁から連れてきた娘だよ。大蛇丸様のお気に入りさ」

暁と聞いて体がこわばった。
その様を見てカブトが付け加える。

「――と言っても、戦闘要員じゃないよ。
暁のメンバーに恋人がいたらしくて、そいつについて行ってたって話だ。
僕にとってはただ足の速さと痛みを移せる能力だけが取り柄のただの小娘なんだけど、何故か大蛇丸様がご執心でね……」

なんだってよかった。
ただ、そのが暁にいたということが許し難かった。




が修行をしているという場所をカブトに教えてもらった。
アジトからほんの少し離れたくらいの場所で、教えてもらうほどでもないのだが。

近づいていくこちらの姿に気付くと、は素早く両手を背の後ろに隠した。

「……何をしていたんだ??」

そう問いかけると、はにっこりと笑って答える。

「企業秘密」

「………」

「えーっと、サスケくんだっけ?? あなたは何をしに来たの??」

サスケくんという言い方で、なぜかサクラが思い浮かんだ。
今頃泣いているのだろうか。

「……サスケでいい。お前と話をしに来た」

「んじゃ、あたしもでいいよ。……で、何のお話を??」

そう言ってくすりと笑う。
からかわれている気がして、しょうがなかった。

「お前が暁にいたというのは本当か??」

「うん。ホントだけど?? それがどうかした??」

下からのぞき込まれる。

この女と話をしていると、変な気分になる。
こいつはオレよりも年上なはずなのに、ずっと年下に見えてくる。
顔が幼い訳じゃない。
おそらく内面的な何かが幼いのだろう。

オレもを見返していった。

「オレには、暁に殺したい男がいる。そいつは……」

「イタチ兄さんでしょ」

オレは驚いて目を見開いた。

ありゃ、とはおどけて両手で自身の口をふさぐ。
いたずらっぽく笑ったあと、言った。

「兄さんっていっちゃったね、ごめん。
でもあたしにとってはお兄さんみたいなものだったから」

「………」

何故、オレがあいつを殺そうと思っていたことを知っている。
大蛇丸から聞いたのだろうか。

そう問おうとしたが、先にが口を開いた。

「理由は、一族の敵討ちだっけ??」

またもやオレは驚く。
そんな事まで大蛇丸の口から聞かされていたのか??

「ふふっ、バッカみたい」

そう言ってが笑った。

途端に怒りがわいてくる。
つい先刻にはその顔に見とれていたはずなのに、憎らしさを感じる。

じろりと睨むが、はこちらを向いていなかった。

「イタチさんから、サスケのこと聞いてた。弟がいるって。
そいつは自分を殺しに来るんだって。
……ね、なんで二人で生きようと思わなかったの??
どうして、血のつながってる人を殺そうと思えるの??」

純真そうに見える瞳で、こちらの顔をのぞき込んでくる。

――分かった。こいつが幼く見えるのは、人の死をよく知らないからだ。
敵討ちという概念が分からないんだ。
おそらく、人が死ぬと言うことを、そんなにたいしたものだと思っていないのだろう。

「お前だったらどうするんだ??」

「――え??」

は驚いたように瞬きをした。

「もしお前に兄弟がいたとして、そいつにお前の両親が殺されたら、お前はそいつを許せたのか??」

「………」

は小首をかしげてもう一度瞬きをする。
俺の顔から目を逸らし、すぐ脇の木にもたれかかった。
赫い瞳で、虚空を見つめている。

「両親なんて、とうの昔に死んだよ」

今度はオレが驚く番だった。
彼女の赫い瞳には、やはり何の感情も浮かんではいなかった。

「父さんは病気で死んだし、母さんは…、なんだったかな、事故??
すぐに義父と義母ができたけどね……。
――ね、その人たちどうなったと思う??」

いたずらっぽく笑って問われる。
問いの意味が分からず俺は無言で返した。

「………」

「殺したのよ、あたしが。この手で!!」

あはは、とは笑った。
信じられなかった。
こいつが、両親を殺した……??

さらに問い詰めようと口を開いたが、カブトがこちらに向かって歩いてきているのが見え、口を閉ざす。

「――。大蛇丸様が呼んでいるよ」

「……うん。分かった。すぐ行くね」

は頷いて歩き出し、アジトの中へと戻っていった。
カブトがこちらを向いて聞いてくる。

「あの子と何の話をしていたんだい??」

「―――お前には関係ない」

そうだ。
オレがイタチに復讐しようと、あいつが両親を殺そうと、互いに関係のないことだった。
そんなに気にすることではないんだ。

「そういうつもりなら無理に問い詰めはしないけど……。
不思議だね、あの子の存在は」

どういう意味だと問うように、視線を向ける。
カブトはうっすらと気持ちの悪い笑みを見せた。

「あの子にはね、なぜかたくさんの人が魅了されてるんだよ。
大蛇丸様もそうだし、さっき言っていた多由也もそうだ。
暁にいるメンバーも、幾人もの人がを好んでいたらしい。
その中の一人と付き合ってたってのは確かな情報だよ」

その、人の中にイタチが含まれているのかどうか、聞こうとしてやめた。
聞いてもしょうがないことだ。

まして、イタチと付き合っていたりなどしていたら、オレはどうしたらいいのかわからなくなる。

オレは踵を返して、カブトに背を向けた。

「キミは……どうなんだい??」

カブトの声が背中に突き刺さる。
一瞬動きを止めた後、オレは振り返って答えた。

「……どうだろうな」




大蛇丸の部屋の前を通った時、の声が聞こえた。
思わず足を止め、耳をすませる。

「サスケくんと、何を話していたの??」

「いろいろ、だよ??」

少しくぐもった声が聞こえてくる。

話していた内容を聞くなんて、野暮なことをする。
どうせ盗み聞いていたはずなのに。

「なんか、ふくしゅーについて、とか?? そんな感じ」

投げやりな答えだ。

あぁ、と大蛇丸が笑った。
楽しそうだ。

「それならアタシも聞こうかしら。もしアナタの恋人が殺されたら、アナタはどうするの??」

恋人という単語に反応して、体がビクンとはねた。

今ので気付かれはしなかったか。
そう思ったが、すぐに気付く。

大蛇丸のことだから、すでにオレが盗み聞いていることには気づいているに違いない。
そしてわざと、そのような単語を出したのだろう。

「――あぁ、デイのこと??
もちろん、殺すよ?? 誰であろうと。
地の果てまで追って、さぁ」

デイというのがの元恋人なのだろう。
いや、でも今このようなことを言っているということは、元ではないのか。

に恋人がいるということを実感したが、同時に安心もした。
イタチでは、なかったということだ。

そりゃそうだな、兄さんみたいなものだ、って言っていたのだから。

皮肉げな大蛇丸の笑い声が聞こえる。

「一途なことね」

「あたりまえじゃん。デイが、一番だもの。
今も、昔も、これから先もずーっと。
あたしの世界にデイ以外の人間なんて、いらない」

頭をガツンと殴られたような気がした。

のその言葉は、誰一人として受け入れてはいなかった。
その、デイという男以外は。

別に、そこまで惚れ込んでいるわけではなかった。
ただ、少し気になり始めていた……それだけだった。

不出来の芸術 その9

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あとがき
はい、だんだん逆ハ―の予兆が((←
なんとなくネーナをだしてみた((わかる人にはわかるネタ。うちの相方とか
更新滞っててすみません
親からパソコン禁止令が出たので、親の目を盗んでしか更新ができません((悪
がんばりまーす((泣
08月11日 桃