不出来の芸術

サスケがここに来てから数年が経った。
だからどうとか、別に何かある訳じゃないけど、ただとりあえずあいつはすごい速度で力を上げていった。
一体何をしたのかと大蛇丸に聞いてみたが、楽しそうに笑っただけで教えてはくれなかった。

クスリでも使っているのだろうか。
それとも、ただ単に才能の問題か。

何にせよ、あたしがサスケに遅れを取っているということは間違いがない。
追いつくまではできなくても、あたしもこうしちゃいられないと修行を厳しくし始めた。
だけど具体的に何をするべきなのかが分からない。

「家には巻物とか置いてあったのになー」

手裏剣を手に持ちながらぶつぶつと呟く。
デイについて行ったとき、身一つでついて行ったのが失敗だった。

いやでも、あのときはまだ忍術の修行をやるなんて夢にも思っていなかったのだから仕方ないと言えば仕方ないか。

とりあえず、チャクラ千本で痛みを移す動作のタイミングを遠隔操作できるようにはなった。
例えば、大蛇丸に千本を刺したとして、
あたしが何も印を組まなければそのまま痛みを与えるまたは奪うだけなのだが、
そこで印を組むことで時間を指定してその動作を行える。
大蛇丸が寝ている時間帯に痛みを与えて苦しめることも、大蛇丸の死の直前に発動させて、死ぬときに感じた痛みを全て奪うこともできる。
例えその場にあたしがいなくても、だ。

もちろん、そのときの感覚はあたしの体に残るので、
あ、今大蛇丸が死んだ。
とかいうことまで察知できるのだ。

まぁ、大蛇丸に千本を刺せるかどうかは別問題だが。
……下手にそんなことをしたら殺されかねないな。

あはは、と一人で引きつった笑みを浮かべる。

そのとき、空気が僅かに揺れた。
あたしは咄嗟にクナイを掴み、後方へと投げる。

カンッ
と金属同士が当たる音が響く。

「―――チッ」

確かに、男のものである舌打ちが聞こえた。
その音があたしの耳に届くと同時に、あたしは地面を強く蹴る。
宙に飛び上がり、男の真後ろに降り立つ。

「――ね、どこの忍??」

首筋にチャクラ刀を当てながら聞いた。
相手はあたしよりも背が高かったが、手を伸ばせば首に届く範囲だ。

「うっ……ぐっ。あんた、大蛇丸の手下か??」

「………」

軽く眉を上げてチャクラ刀を更に首に近づける。

「今、あたしが質問してんの。ね、どこの忍??
それにね、あたしが大蛇丸の手下かどうかなんて、答える義理がないもの」

男が低く呻いた。
だが、その一瞬後に煙を残して掻き消える。

「しまっ――!!」

慌てて振り向いた時には遅かった。
今度はあたしが首筋にクナイを当てられていた。

影分身……ッ!!

「――今度こそ答えてもらうぜ。なぁ、べっぴんさんよぉ……??
あんた、大蛇丸の手下か??」

あたしの体を押さえていた、男の左手が動き出し、あたしの顎を掴む。
そしてそのまま男の方を向かされた。
男はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべてあたしの顔を眺めている。

「ほぉ。こうしてみると、ますます美人だなぁ。殺すのがもったいねぇくらいだ。
まぁ、殺す前に辱めるのもまた一興、か……」

ククク、と楽しそうに笑う。
あたしもそれに笑い返して、言った。

「あたしに触れると、ヤケドするわよ??」

そしてその言葉通りに、相手に全身大火傷をした人の痛みを移す。

「なっ……」

男が瞬時にあたしを離した。
その隙にあたしは飛び上がり、相手と距離を置く。

「う、ぐっ、ぐああぁぁぁっ!!」

大声を上げてそいつは叫び、のたうち回った。

あぁ、なんておもしろい。

漏れる笑みを隠せないまま、あたしはチャクラ刀を手に持って男に近づいた。
それを男の首めがけて振りおろす。

―――が、手首をがしりと掴まれた。

「………ッ!?」

男が、顔をゆがめながらニィと笑った。

……え、どういうこと??

そしてそのまま視界が転換し、男に組み伏せられる状態になる。

「いたくない、の……??」

「いてェよ、クソ女!! だがなァ、これくらいの痛みならオレは慣れっこなんだよォッ!!」

………チッ。やっぱり痛みだけで戦うのには無理があるな。

男があたしの手のひらに、クナイを突き立てた。

「………っ!!」

痛みは、ない。
だけど体を新しい感覚が取り巻いていく。

「な、にを……した、の……!?」

舌が回らない。
チャクラも練れないし、手足も思うように動かない。

男を睨みつけると、そいつはさも可笑しそうにククッと笑い声をあげる。

「しびれ薬をつけたクナイだ。こういうときのために持ち歩いてんだよ」

チロリと覗いた赤い舌が、薄い唇を舐めた。

「…………」

両手を必死に動かして、暴れる。
相手の束縛から逃れようと努力するが、やはり力が入らない。

男がニィと笑って、首筋に顔を近づけ、舐めた。

「ぎゃぁッ!!」

き、気持ち悪い……。

相手の顔を見返した時、相手の首がとんだ。

「………ッ??」

驚いて首を動かすと、こちらに向かって走ってくるサスケと、楽しそうにほほ笑む大蛇丸が見えた。
首を飛ばしたのはどちらだろう。大蛇丸かな。

サスケがあたしの体を起こした。

「大丈夫か??」

「……うん」

「アナタ、戦闘じゃてんでダメね。使えないわ」

大蛇丸も寄ってきて、クスクスと笑う。

なんだ、全部見てたんじゃん。

「知ってたなら……っ、助けに来てくれても……!!」

そう言って咎めるように大蛇丸を見る。
サスケが手を貸してくれて、なんとか立ち上がれた。

「ちゃんと助けに来たじゃない」

「遅い、ってのッ!!」

「まぁまぁ、そう怒らずに」

にこにこと笑ってカブトさんもやってきた。
そのままあたしの手をとり、ケガを治し始める。

「しびれ薬だけど……。解毒薬を作るのに時間がかかるから、少し待ってくれるかな??」

「別にいいけど」

シュウシュウと音を立てて、怪我が治っていく。
少しあとの残るくらいまで直すと、カブトさんは手を離した。

サスケがあたしに短く声をかけ、歩きだした。
サスケの肩に体重を預け、おぼつかない足取りで前に一歩進む。
……こけた。

「うぉわっ!!」

「お、おいっ!!」

バランスを崩したあたしの腕が慌ててつかまれ、引き寄せられる。

あぶない、地面と正面衝突するとこだった。

「……歩けない……んだな……」

「………いや、大丈夫、行けます」

「どこがだ」

その声とともにサスケがあたしの目の前で腰をかがめる。

「乗れ」

「……。ありがと」

倒れこむかのようにおぶさると、サスケが立ち上がった。
そしてそのまま、アジトへと歩き出す。

あたしの部屋に入ると、中のベッドに座らせてくれた。

「ほんとにありがとねー。大蛇丸だったら、絶対に放置されたよ」

「構わない。それより……」

そこまで言って口を閉ざす。

しばらく迷うように視線を泳がせ、また口を開いた。

「お前が忍術を学んで、戦う必要があるのか??」

「………」

あたしは首をかしげて見せた。
相手の言いたいことがよくわからなかったからだ。

「えーっと?? あたしの意思でやってんだよ?? いつかここを出た後、デイと一緒に戦うんだから」

今の段階ではまだそれは叶いそうにもないが。
しかし、そもそもうちの一族の力は敵の動きを鈍らせるためのものであって、相手を身体的に傷つけられるものではない。

本来なら誰かと組んで戦うものなので、デイと組んだらうまくいくかもしれない、多分。うん、多分大丈夫。

そう考えてうんうんと頷いていると、サスケがこちらを向いた。
あたしの肩を掴み、激しい口調で言う。

「オレだったらッ!! お前を、戦わせはしない!! 危ない目になど、あわせたくはない!!」

「……どしたの?? サスケ??」

その目を覗き込んで聞く。

なんかテンパってるよ、この人。

「ね……、サスケ……?? 戦うって決めたのはあたしなんだよ?? デイも、サスケも、関係ないよ。
あたしは、デイの役に立ちたいだけなんだもん」

「………ッ!!」

サスケの顔が大きく歪んだ。
と同時に肩を押され、ベッドに倒れこむ。

「え、ちょッ!?」

上から覆いかぶさってくるサスケを見て、慌てて腕で制そうとするが、まだ思うように動けない。

くそ、まだしびれ薬が……。
やっぱり、『待つ』なんていうんじゃなかった。

「ちょ、サスケ……!? む、ぐ……ッ!!」

口を柔らかいもので塞がれる。
サスケの顔が間近に来ているのを見て、何をされているのかを瞬時に悟った。

「――んーっ!!」

一瞬唇が離れ、空気が口内になだれ込んでくる。
それを求めて口を薄く開いた隙に、また口づけられた。
口内に異物が侵入してきて、舌を絡めとる。

「む…ぐ……」

キモチワルイ

キスってこんなに、嫌な気持ちになるもんだったっけ。

あたしは目を細めた。

あぁデイ、会いたいよ。
ていうか、恋人がこんな目に遭ってんだから、助けに来いよ。

ふと気がつくと、サスケの手が着物にのびていた。
胸元に目をやり、あわせの部分を掴む。

……嫌だ。

とっさに、動かない手を鞭打って左手の甲から千本を抜き取った。そしてそれをサスケの首筋にさす。

「――――ッ!!」

痛みにサスケが顔をゆがめた。
パッと、体が離れる。
はぁはぁと肩で息をしながらあたしはサスケを睨んだ。

どうしてこんなことをしたのかなんて、聞きたいわけじゃない。
こいつがあたしにそういう、恋心っぽいものを持っていたことは知っていた。大蛇丸が楽しそうに話していた。
別に悪い気はしなかったし、かといってあたしがサスケに惚れているわけでもなかったので、
浮気にはならないだろうし、まぁいいかな、なんて思って、特に冷たくあしらうこともせずにいたのだ。

あぁもう、初めっから冷たくしときゃよかった。

今サスケがあたしにしようとしていた行為は、想像するだけでも吐き気がするようなことだ。
絶対に、許してなどやるものか。

「………」

サスケは首に刺さった千本を抜くと、うつむいた。
そしてそのまま立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。
ドアを開ける直前に立ち止まり、こちらを向かぬまま呟いた。

「……悪い」

「―――っ!! でてってッ!!」

あたしは叫んだ。
それしか、今のあたしにできることはなかったから。

手足が自由に動きさえすれば、ぶん殴ってやったのに。

「とっとと出てけ!! 二度とあたしの前に現れるなッ!!」

「………」

ここでやっとサスケは振りむいて、あたしと目を合わせた。

「本当に、悪かった」

「出てってよッ!! あんたの顔なんか、見たくもないっ」

「……あぁ」

悲しげに視線を落として、サスケはドアを開けた。

何よ、何なのよその表情は。
悪いのはあんたよ、あんた以外の何者でもない。
それなのに、その顔はなにっ!?

「ごめん」

それだけ言い残して、部屋を出ていく。

ドアの閉じる音だけが響く。

「――――っ!!」

やり場をなくした怒りをどう沈めたらいいのか分からなかった。

「デイ……っ」

あぁもうデイ、会いたいよ。
会って、ぎゅってしてほしい。

最初は、あの時にあたしから手を離したことに対して怒ると思うけど、でもそんな表情さえも大好きだから。
一緒にいるって実感できるから。
怒られることも実は大好きだった。

会いたいよ、デイ。
そして早くこの、全身にまとわりつく嫌な気分をぬぐい去ってしまいたい。

「………」

何分経っただろうか。
ドアが開いて、カブトさんが薬瓶を手に持って入ってきた。

?? しびれ薬の解毒剤だけど」

「――カブトさん」

全く、遅すぎるよ。
って言っても、遅くなってもいいと言ったのはあたしだけど。

あたしはため息をついてからカブトさんの目を見据え、言った。

「ね、あたし、ここを出たい」





自分が何をしたかったのかが、分からなかった。

オレは、一体何がしたかったんだ??

彼女の嫌がる顔が見たかったのか―――否。
彼女の愛する男の代わりになれると思ったのか―――否。
ああいう行為をとれば、彼女が喜ぶとでも思ったのか―――否。

オレはただ、獣のごとく自分の欲望に従って動いただけだ。

そして、彼女を傷つけた。
に、嫌われてしまった。

自業自得だ。オレは、バカだ。

を犯したところで、彼女がオレのものになるはずもないのに。

時がたてば、許してくれはしないだろうか。

我ながら甘い考えだと思う。
だけど、とりあえず明日、手をついて謝ろう。
たとえこちらに目を向けてくれなくても、頭を下げ続ける。
オレは、最低のことをしたのだから。



そして翌朝、がアジトを去ったと聞いた。
そこでやっと、自分の犯した罪の重さと、失ったものの大きさを思い知って、泣いた。



出来の芸術 その10

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あとがき(今回は長文です)

とうとう10話目に入りましたー
10話目なので、あとがきも本文も長文です
基本あたしはあとがき長文人間なんで

いよいよが親の元を巣立ちます((え
あっさり巣立ちます
大蛇丸は止めなかったのかーとかの疑問の、続きはWebで((嘘、いやほんと

なんかサスケさんがキャラブレしててすみません
でも、これでも精一杯の譲渡なんです
サスケファンの方、ごめんなさい
あたしサスケ嫌いなんです!
ってことで、そこまで悪人にしなかったってことで、大目に見てやってください
最初はもっと、鬼畜な話になるはずでした
でもそれじゃやっぱりひどいすぎるかな、とか考えて変更したわけです
決して管理人が裏を書くのが嫌だからじゃありません
ごめんなさい今嘘つきました
極力裏は書きたくないんです、はい
というわけでこれからも微々々々裏くらいのものしか書きません
ご理解ください

あ、言っておきますがサスケの出番はこれで終わりじゃないですよー
後でもっと大事な役割がありますからね((ニヤ

最後に、更新超遅くなってすみませんでしたー
がんばります

あれ、なんかもう長文すぎるような気がしてきました
あれれー、まだサスケに関して書きたいこといっぱいあるのにな
もういいです、胸の内に留めておきます

んでわ

09月22日 桃