「沖田さーん、お昼一緒にどうですかー。もう焼いてありますよぉ」
出来立てほやほやのお好み焼きを手に持って、ひょこ、と顔を覗かせ言う。
畳の上にごろりと寝転んでいた沖田さんは赤いアイマスクも取らないで答えた。
「悪ィが一人で食べてくれィ」
「えーッ!? みんなそう言って誰も相手にしてくれないんですよぉっ!!」
「そりゃあれだ、てめェが毎日お好み焼きしか食わねェからでィ。
あと、何でもかんでもお好みソースかけンのもやめやがれィ。見てて気持ち悪くならァ」
土方コノヤローでもあるめェに、とぶつぶつ言う沖田さんに歩み寄る。
「なにいってんですか。マヨネーズなんかと一緒にしないでくださいよ。
マヨなんかね、お好みソースと同時につけないと食べられませんよあたし」
「似たような入れもんに入ってるだろィ」
「入れもので決めないでくださいー!!」
憤慨するあたし。
沖田さんのアイマスクを剥ぎ取って、諭すように言う。
「何もかも第一印象で判断したらダメですよ。第一印象だけじゃ他人のことなんて何もわかんないですよ」
「あれ、今そういう話してたんだっけ違うよねきっとそんな重い話してなかったよね」
眠そうな表情で一息にそういいながらあたしの手からアイマスクを奪い返す。
そしてそれを装着して、また寝息を立てだした。
「沖田さーん……」
ぺちぺちと頬を叩いてみるも反応なし。
むぅ、と少しだけむくれて、あたしは後ろを向いた。
――土方さんがいた。
「……オイ、」
「あ、大丈夫です。貴方をお好み焼きに誘うほど、あたしは血迷ってませんから」
「そういう話をしてんじゃねェッ!! てめェ俺なめてんのか!!!!」
激昂する土方さん。
あたしはそちらをちらりとも見ずに答える。
「やだなぁ土方さん。あたしが貴方をなめてるなんて、前々から分かってることじゃないですかー」
「ふざけんなよてめェはあァァっ!!」
あーあーあーうるさいうるさい。
耳を塞いであたしは部屋から出た。
沖田さんの安眠の妨害だけは御免被りたかったからだ。
後からついてくる土方さんを一瞥して、口を開く。
「何ですかーぁ?? あっ、さては、あたしとお好み焼き食べたいんですねぇ??
仕方ないなー、そんなに言うんだったら一緒に食べてあげても……」
「違うわァッ!! お前の脳みそはなんだ、お好み焼きの生地でできてんのかっ!!」
失礼な人だ。
あたしは半眼になって土方さんを睨んだ。
「うるさいですよ。脳みそマヨネーズに言われたくありません」
「待てお前、今何つった?? ――おい!! 無視すんじゃねェ!!」
耳に障る怒号から逃れるため、あたしはせっせと足を運ぶ。
どうせあの人の話なんて、今日の捕り物のこと忘れてねェかとか、そんな程度だろう。
大丈夫、一時に大使館前とかそんな感じの待ち合わせだったはず。
あれ、違ったっけ??
それ昨日の話だっけ、来週の話だっけ。
確か、桂なんとか、って人を捕まえるとかなんとか言っていた。
まぁあたしにとってはそんなことより、お昼をどうするかの方が重要だ。
もう屯所には戻れない。怪人マヨ方が待ち受けているから。
仕方ない、こうなったらその辺の公園で食べるか。
そう思って足を踏み出して……むぎゅ、何かを踏んだ。
「――む」
「きゃあぁぁあっ!! 大丈夫ですかすみませんお坊さんッ!!」
「お坊さんじゃない、桂だ」
よくわからないツッコミを入れて、お坊さんは体を起こした。
すぐ脇に落ちていた三度傘をとって、被る。
お坊さんなのに髪が生えていた。綺麗な黒髪だ。
整った顔立ちを微かに歪ませて、顔をしかめた。
「眠っていたのか」
「……?? あぁはい、寝てましたね。だから踏んだんですけどね」
「そうか。起こしてくれてありがとう。助かった」
「……はぁ、どうも」
起こしたつもりはないのだけれど。
少々引きぎみのあたしに、突然お坊さんは整った顔を近付けてきた。
「……ひゃ。――な、なんですか??」
「…………」
あたしの顔と服装をまじまじと見て……。
黙りこむ。
しばらく静かにうぅむと唸ってから、お坊さんは首をかしげた。
まだ視線の先はあたしの顔と服を行き来している。
なんだろう、服に値札でもついてた??
そんなはずはない。今着ている服は真選組の制服だからだ。
ちょうどいいから、あたしだけのためにデザインされた(あたしが真選組の制服は可愛くないとごね
たからだ)真選組の女幹部服の説明をしておこう。
袖口がレースで誂えてある真っ白いブラウスの襟元が同じく真っ白いリボンでとめられており、
男子の幹部服と同じ皮のベストをその上に着る。
更に男子の幹部服と同じデザインで、袖口が広がったジャケットを羽織る。
ズボンはブーツカットになっている。
はっきり言って可愛い。
けど動き辛いのが難点だ。
まだあたしの顔と服を眺めていたお坊さんは、迷ったのちに口を開いた。
「俺たち、どこかで会ったことはあるだろうか??」
「…………」
今度はあたしが黙りこむ番だった。
――どうしよう。さっぱり覚えてない。
もしどこかで会っていたとしても、覚えていないのだからどうしようもない。
「すみません、分かんないです。あたし記憶力がほんとにクソで、今まで会ったことのある人の三分の二は顔も名前も忘れてるんで」
「……いや、いい。少し知り合いに顔が似ていただけのようだ。
それと……、その服もどこかで見たことのあるような……」
眉を寄せて考えこむお坊さん。
しかしすぐに、ぐぅぅという腹の虫の泣き声が聞こえてきた。
恥ずかしがることもなくお腹に手をあてると、お坊さんはむ、と唸る。
「考えてみれば、昨日から何も口にしていなかった……」
銀時との再会の計画に浮かれすぎたか、等とよくわからないことを呟いて、お坊さんは財布を出す。
あたしは黙ってそれを見守った。
「………」
所持金、0。
項垂れるお坊さんに、あたしはしめたとばかりに食いついた。
「もしよかったらお昼御一緒しませんか?? お好み焼きあるんでっ」
「本当か?? それは助かる」
「いえいえー」
うふふ、とあたしはほくそえむ。
お坊さんとはいえ、こんなかっこいい人とお昼を食べられるなんて、最高の至福だわ。
お坊さんの手を引いて歩き出しながら、ところでとあたしは眉をあげた。
「お名前教えていただけますか?? お坊さんじゃ呼びにくいし」
「桂小太郎だ。お前は……??」
桂小太郎……。
近日、それも今日とか昨日とかに聞いたことのある名前だ。
なんだったっけ??
ふむ、と顎に手をやりながらあたしも名乗る。
「です」
……ダメだ、思い出せない。
「……、やはり聞いたことのある……」
桂さんも軽く唸る。
やっぱり会ったことがあるんだろうか??
「ともあれ、時間があまりない。手早く食事を済ませてしまおう」
「あ、ホントだ。もう十二時半じゃん。早くしないとマヨラーに怒られる」
急いで適当なベンチに座り、お好み焼きを食べ始めた。
一時まであと数分となった頃、あたしたちはお昼を食べ終わってベンチから腰をあげた。
「それでは、あたしは仕事なので」
「俺も、そろそろ友人をおびきだ……いや、友人が待ち合わせ場所にくるはずだから」
では、縁があればまた、と互いに手を降って――同じ方向に歩き出した。
「……」
「………」
早足で歩きながら互いに顔を見合わせる。
「…………」
「……………あは」
「………………ふっ」
――堪えきれずに噴き出した。
「あ、あはははっ。どこまで一緒なんですかあたしたちっ!!」
「……俺は大使館に向かっているが」
「奇遇ですねぇ。あたしもですよー」
「……」
「………ぷっ」
「――共に行くか??」
「もちろんです」
互いに深く頷きあい、道を共にする。
この時あたしは、桂さんが今回の捕り物のターゲット『狂乱の貴公子』桂小太郎だとは思いもしていなかった。
どぉん、と凄まじい音がして、あたしは眉をあげた。
マジかよ、またテロなの??
チィと舌打ちをして、塀越しに大使館の方を覗こうとしたが、床に座り込んでいた桂さんに止められ
た。
「危険だ。しばらく様子をみろ」
「……でも」
これを止めるのが、あたしの仕事だ。
そう言って尚も食い下がろうとしたとき、割と近くで、騒ぎの音が聞こえた。
男の声が多数と、女の声がひとつ。
さっき目の前を通っていった人達だろうか。
「私に構わず逝って二人とも」
「ふざけんなお前も道連れだ」
何やら物騒なことを逝っている。……あれ間違えた、言っている。
胡座をかいていた桂さんは黙って耳を済ましている。
その間も叫び声は耐えない。
「ぬわぁぁぁ!! ワン公いっぱい来たァァ!!」
柵を押し潰して人面犬どもがすぐ脇を通っていく。
それより土方さんいないよね。何やってんだアイツバカじゃねーのかバーカバーカ。
チャキ、と桂さんが手に持っていた杖のような物を鳴らした。
「……手間のかかる奴だ」
そして急に立ち上がり、駆け出す。
「えっちょっ!? 桂さんっ??」
慌ててあたしも、ワン公をなぎ倒していく桂さんのあとを追う。
何故かワン公どもがあたしにまで襲いかかってきたが、ムカついたので全員駆逐してやった。
……あれ、今のってひょっとして土方にバレたら切腹させられたりする??
今更それに気が付いて、だらだらと冷や汗が流れ出るが、先に進んでしまった桂さんは汗を垂れ流している少女のことなど気にも止めていない。
「おまっ!! ヅラ小太郎か!?」
「ヅラじゃない桂だ!!」
……いろいろと楽しそ、いや、大変そうだ。
「行くぞ銀時!! ……もこいっ」
「はいぃぃ??」
言われたままに駆け出すが、あたしは今必死に別の事を考えていた。
待って、何この展開っ。
なんであたし今、味方のはずのワン公どもに追われてんの!?
一方。事態を把握できていない真選組隊士・の上司、土方十四郎は刀を鞘に戻して眉をあげた。
「……オイ総悟。はどこ行きやがった」
問われた沖田はあくびをしながら眠そうに答える。
「さぁ。大方どっかでお好み焼きでも食ってんじゃないすか??」
「一時には屯所に戻ってこいっつっといたのにっ!!」
「あいつに記憶力を期待する方がバカでさぁ。バカじゃねーのかこいつバーカバーカ」
「てめェにだけは言われたくないんだけどォッ!!」
激昂する土方。
少し落ち着いてもう一度双眼鏡を覗き……桂のあとを走っている唯一の女性部下を目にしてまた激昂した。
「何考えてんだアイツはアアァッ!!」
「何も考えてねぇんじゃないすか??」
桂さんと白髪の人が言い争っているときに、悲劇は起きた。
不意に大勢の足音が聞こえ、聞き覚えのある声が部屋に響く。
「御用改めである!! 神妙にお縄につけ!! それと……」
ぐるん、とどこかで見たような黒髪の男があたしを見た。
「――。 てめェ今自分のいる位置分かってんのか」
「……はひ??」
予測通りそいつは怪人マヨラーだった。
その後ろには沖田さんもいて、何やらだるそうな表情だ。
言われている意味が分からず、あたしは首をかしげた。
今いる位置って……、江戸??
結果的に大幅のズレが存在していたあたしの予想を、土方さんはあっさりと覆した。
不機嫌そうに顔を背けながら。
「てめェも所詮、穣夷志士だったってことか」
「……え」
あたしは目をぱちぱちさせ、呟いた。
「――まさか」
「まさか……」
「…………おい、お前まさか」
幾人もの人の声が重なりあう。
ひとつはあたし。
そして他のほとんどは桂さんとそのお友達。
最後のひとつは土方さん率いる真選組の仲間たち。
あたしは目を見開いて、桂さんの方を振り返った。
桂さんたちもあたしをすばやく見る。
そして一斉に口を開き、言った。
「あなたたち穣夷志士だったのっ!?」
「お前真選組だったのか!!」
「やっぱり気付いてなかったんかいイィッ!!」
激昂する土方さん。
あっちゃーぁ。
よりにもよって、一番ついていってはいけない人達についてってたんだ、あたし。
一瞬の間のあと、冷静さを取り戻した土方さんが刀を桂さんの方に向けて言う。
「。最後のチャンスをくれてやる。そいつらを斬れ」
「えー……」
む、とあたしは一瞬むくれてみせて、その一瞬のうちに刀を背から下ろして鞘を外した。
「すご……」
メガネの子が誉めてくれた。
……あざまーす。
心の内でお礼をいいながら、近くにいた穣夷志士を二、三人薙ぎはらう。
「……貴様ァアアっ!!」
桂さんが叫び、マヨラーがにやりと笑う。
「よくやった。……次は桂だ」
「はぁ?? 嫌ですよーぉ」
あたしは眉をあげてマヨ方を見てやった。
もちろん、非難の目で。
「何言ってんですか土方さん。あたしを殺す気ですか??」
あたし程度じゃ桂さんには敵いやしない。
ホントに死ぬ気で頑張って、やっと相討ちというところだろう。
「うるせェっ!! てめェ何様のつもりだァッ!!」
「か弱い乙女のつもりですよ!!」
堂々と言い返してやったのだが、
「誰がだ」
と先程薙ぎ倒した穣夷志士に呟かれてしまった。
「大丈夫かっ」
彼らに桂さんが駆け寄り、容態を確かめる。そして、顔色を変えた。
「お前……」
驚いたようにあたしを見る。
当たり前だ。
あたしは彼らを斬ってなんかいない。
峰打ちで一瞬だけ気を失わせただけだ。
だって、いくら穣夷志士とは言っても、この人たち悪い人に見えないし。桂さんも普通にいい人だ。
少なくともあたしには斬る気はなかった。まぁ、斬りかかられたら容赦なく迎え撃つけど。
土方さんがまた叫ぶ。
「いいからとっとと全員殲滅しろ!!」
「無理でぇすー」
「ふざけんなてめェっ」
「あたしはいつだって本気です――」
……背後で、誰かが動いた。
それに僅かに反応し、顔を向ける。――その一瞬で、あたしの体は宙に浮いていた。
「――ッ!!」
土方さんと沖田さんの声が重なる。
桂さんがあたしの体を抱えて、投げた。
ちょうど沖田さんの真上辺りに。
「お、っと……」
うまく沖田さんが受け止めてくれた。
お礼を言うよりも前にあたしは桂さんを見る。
――もう彼らは走り出していた。
「ッ!! 俺はお前が気に入ったぞ!!」
等と叫びながら。
真選組の仲間達があたしと沖田さんの横をダダダ、と足音をたてて通り過ぎ、それを追った。
「………」
……えっと。
あたしはぱちぱちと瞬きをする。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
気が付いたら体が浮いていて、気が付いたら落ちていた。
しかし傷は微塵もできていない。
一応沖田さんが受け止めてくれたが、もしそれがなくとも、あたしにはかすり傷くらいしかできなか
っただろう。
それだけ優しく放ってくれたのだ。
「………」
無言のまま沖田さんを見る。
「…………」
ごん。
――殴られた。
沖田さんは薄く笑いながら腰をあげる。
「いい加減その記憶障害治しやがれィ」
「え、はい……」
すんません。
「てめェもすぐにあとついてこいよ」
そう言って沖田さんは先に歩き出す。
「………」
あたしは無言でそれを見送り……、先程殴られたところを両手で押さえた。
「……あーっ、もうっ」
『それ』の到来はあたしの予想よりも遥かに早く。
よってあたしは、気付いてしまったこの気持ちを恥じ、悔いて、ひた隠しにしていかなければならないのだ。
第一印象はやっぱり大事
Stay with me tonight
このまま友だちなら
君の心 傷つけずにすむはずさ
Something on your mind
伝える勇気が 逃げていくのは
僕も 傷つくのが 怖いから
Let me be your light
このまま友だちなら
僕の心 気付かないでいて欲しい
Something in your eyes
これから始まる 物語なら
隠してる サインに 気付いてよ
東方神起 Stay with me tonightより
Next
あとがき
テスト前です((笑
明後日テストです
俗にいう現実逃避ってやつですね
沖田さん全然出てないです
しかもオチないですごめんなさい
次は頑張ります
……あ、次沖田さん多分出ないわ((オイ
07月03日 桃