「てんせいきょぉ??」
あたしと山崎さんが同時に声をあげた。
お好み焼きにソースを塗る手を止めて、あたしは聞く。
「なんですかそれ、新手の宗教かなにかですか??」
対する土方さんはお好み焼きにマヨネーズをかけながら答える。
オイなんだそのマヨネーズの量は。
それじゃもう、お好み焼き風味のマヨネーズじゃねェか。
「いい得て妙だな。
確かに苦痛から救ってはくれるが、神ほど絶対的じゃねェ」
「何を意味してるのか分かりません。
もっと分かりやすくお願いします。
あとそのマヨネーズ、頼むから自分で全部食べてくださいね」
そんな見るからに不味そうなもの、罰ゲームでもない限り食べやしない。
いささか気分を害したらしく、視線を尖らせながら土方さんがお好み焼きを切り分けた。
「……クスリだよ。それも、かなりタチの悪ィやつだ。
依存性が高く、はまっちまった奴ァ死ぬか廃人になるかだな」
「はっはー。一時的に救ってくれる神様ですね??
我ながら、確かになかなかうまいこと言うじゃない、あたし」
「…………」
冷めた目付きであたしを数秒眺めたあと、土方さんは続ける。
なんだよ、なんか文句あんのかよ。
「バカはほっといて。
――とりあえず山崎、クスリの流通源突きとめてこい」
「はい」
「バカッ?? 今バカっついましたかあなた!?
知ってましたか、バカって言う方がバカなんですよバーカバーカ!!」
「黙れガキ」
土方さんはクールにお好み焼き付きマヨネーズを頬張った。
……食べてるもののせいでかっこよさ激減だよ。
減りすぎてむしろマイナスいってるよ。
「それでだ。……。お前も山崎に同行しろ」
「はぃ??」
あたしと同時に声をあげたのは沖田さんだ。
お好み焼きを切る手を一旦止めて、沖田さんは土方さんを見る。
「……そいつは聞き捨てならねェ話でィ。
土方さん、はうちの隊の隊士ですぜィ??
監察じゃねェ」
いつも通りの無表情。
だけど、あたしはつい先日に言われた言葉を思い出して、一抹の不安を感じていた。
『もしが他のやつの下に就くことになろうもんなら、俺ァそれを全力で阻止するぜ』
『――俺以外の男に従うことなんざ、俺が許さねェ』
いやでも沖田さん、これはセーフでしょ。
別にあたしが山崎さんの配下にくだる訳でもあるまいに。
そう思いながら沖田さんに視線を向ける。
……普通にお好み焼きを食べていた。
「確かにその通りだ。は監察じゃねェ。
だが、今回の任務は危険だ。天人が絡んでいる可能性が高い。
正直、山崎一人だとかなり不安が残る。
だから戦力になる奴が最低でも一人はいるんだよ」
「それがどうしてなんでィ。隊士なんて他にも佃煮にするほどいるだろィ」
沖田さんは尚も食い下がる。相変わらずの無表情で。
……無表情すぎて関心があるのかないのか、わかんないよ。
「女だからだよ。まだのことは外部にはほとんど知られてねェ。
いいカモフラージュにもなるだろう」
「………」
正論だ。正論としか言いようがない。
沖田さんは小さく舌打ちをして、何やら土方さんを中傷する言葉を呟いていた。
それに土方さんが反応する前に、あたしは慌てて沖田さんを宥める。
「だ、大丈夫ですよっ、あたし一人消えたところで一番隊の戦力にはさして影響は……」
「……………」
――じろ、と睨まれてしまった。
……うぅ。ごめんなさい。
自分のお好み焼きの最後の一切れを呑み込み、沖田さんは盛大なため息をついた。
音を立てて食器を持って立ち上がり、くるりと踵を返す。
「――勝手にしやがれ」
「……ほら、ちゃん元気だして」
山崎さんが頭をなでなでしてくる。
あたしはぷぅとむくれたまま、ソファーにもたれかかった。
「無理でぇすー。あの視線の冷たさは、あたしの心を砕けさせるに充分すぎました」
「そんなこと言うけどね、ひょっとしたら君の放つ言葉の方が、
他人の精神に与えるダメージは強いかもしれないよ??」
「褒めても何もでませんよ……」
「いや褒めてないし」
ほら落ち着いて、とグラスに注がれたサイダーを差し出される。
ストローを軽くくわえながら、あたしは周りを見回した。
周囲では若い男女がノリのいい音楽にのって踊っている。
ここはどうやら、あたしのような純な少女の訪れていい場所ではないようだ。
だが、そのなんとかとかいう麻薬が、この店の客の間で広まっているらしい。
なので、あたし達二人は、麻薬販売人の手掛かりがどこかにないかと私服で潜入中なのだ。
運よく販売人がいてくれたら楽で助かるんだけど。
とりあえず今は周りの会話を盗み聞き中だ。
「なーんもないですねー」
「だねー」
二人でだらける。
職務怠慢じゃないよ、だって手掛かりがないんだもん。
仕方ないよね!! うん仕方ないよっ。
突然山崎さんのケータイが振動した。
一瞬驚いた顔をして、山崎さんがケータイを開く。
「……はい。あ、副長。
――はい、え??
………分かりました、すぐに向かいます」
パタンとケータイを閉じて、山崎さんがこちらを向く。
「もう一件、転生郷が蔓延してると噂の店が見つかったらしい。
だから副長が、一旦二手に分かれろって……。どっちが――」
「あたしが行きます」
山崎さんが聞いてくる前に答える。
目をぱちくりさせながら、山崎さんは了承する。
あたしは軽く苛立っていた。
二手に分かれろだぁ?? あのクソマヨがっ!!
どうせ二手に分かれるなら、最初っからそう言えよバカ!!
おかげで沖田さんの機嫌損ねちゃったじゃんか。
これだからアイツは脳みそマヨネーズ族、略して脳マヨ族なんだ!!
苛立ちを隠しきらないまま、肩から下ろしていた刀を掴み、立ち上がる。
「で、どこですか、そこ??」
「えっと……あ、待って、今タクシーよんであげるよ」
おぉ。それは有難い。
道に迷う確率が120%はあったからだ。
念のためと山崎さんがその店までの地図を書いてくれた。
タクシーなんだから必要ないのだけれど。
「ありがとうございましたー」
タクシーの運転手に礼を言い、車を降りた。
数歩歩いて店の前に立ち、意を決してドアを開いた。
途端に、騒がしい音楽が響きまわる。
……うるさっ!!
もう少し周りの迷惑も考えろっつうの。
心中で毒づきながら、これ以上音が近所に漏れないように、急いでドアを閉める。
中では、若い男女が踊り狂っていた。
さっきの店と大差ない。どこも同じか。
そんな中、あたしは一ヵ所で目をとめた。
チャイナ服を着た女の子と眼鏡の男の子が、明らかにカタギじゃないような奴等に囲まれている。
まだ子供じゃんか。
女の子のほうなんかはあたしより年下に見えるのに、なんでこんな店に来ているんだろう。
危険なことに挑戦したくなるような年頃なんだろうか。
「………っ!!」
不意に、その女の子が倒れた。
ふらぁ、とゆっくり。まるで酒にでも酔ったかのように。
次いで男の子も同じように倒れ……周りの男たちがそれを無理矢理立たせて、歩き出した。
あたしは足音を忍ばせて、奴等の後をつける。
「どうする、こいつ??」
どう見ても天人である男たちが相談を始めた。
「最近俺たちのことを嗅ぎ回ってる、桂とか言うやつの手下じゃねェか??」
「とりあえず連れていって、吐かせるか」
桂。
どこかで聞いたことのある名だ。……思い出せないけど。
この子たちも見たことがある気もしなくもなくもないのだけど(どっちだ)、いかんせん思い出せない。
「しっかし、地球人ってのは脆いもんだな。
ちょっと転生郷嗅がせただけでこれかよ」
「………!!」
あたしは小さく息を呑む。
そしてにやりと口端を上げた。
見ーっけ。
刀に手を伸ばし、鞘を外す。
店員が寄って来たのを、視線で射殺し、黙らせた。
とっとと全員たたっ斬って、何もかも終わらせてやる。
だけどその前に、あの二人の子供を助けなければならない。
そこはもう、運に任せて隙のできるときを探すしかなかった。
そのままつけ続けると、更に天人の数は増えていった。
……違う、増えたんじゃない。元からたくさんいたところに合流しただけだ。
トイレのそばで何やってんだか。皆並んでんの、これ??
そのトイレの入り口に、またもやどこかで見たような白髪の男性が、自嘲気味に笑いながら立っていた。
誰だか血を流した女の人を肩で支えているが、そちらには見覚えは……
あぁ、スーパーの肉売り場辺りで見たことがある気もする。あるいは精肉店とか。
どちらにしても失礼な話である。
その男はあたしが後をつけていた男の子と女の子を見て、目を剥いた。
「新八!! 神楽!!」
虚ろな目で、おぼつかない足取りで歩く彼らを見て、その人は叫ぶ。
「何…オイ!! どーしたんだ!?」
暴れ出そうとする男性を数人の天人が抑えにかかる。
……知り合いだったんだ。
「てめーらァァ!! 何しやがった!!」
あたしはその様を見ながら、静かに思った。
先程まで笑みを見せていたこの男性が、急に血相を変えて、おそらく自身の何分の一もの強さのクズどもに抑えられている。
さっきの二人がよほど大切な人なんだろう。大切なモノが絡むだけで、人はこうも――脆くなれる。
あたしも、そうだったんだろう。
姉さんを失って、気が気じゃなかった。そのまま、朽ちてしまおうとも考えた。
……だけど。
「お前目障りだよ…」
白髪さんのその肩に、眼鏡のロン毛男性が刀をつきたてた。
凄まじい音と共に、男性は後ろに吹っ飛ばされる。
そのまま勢いに乗って……割れた窓から外へと、落ちていった。
だが、肩で支える女の子は取り落とさなかった。
すごい精神力だね。
だんだんと撤収を始めていく天人たちを横目にあたしは一人悩んでいた。
このまま天人たちをつけるか、さっきの白髪の人を助けるか。
「………」
どっちを優先させるべきなんだろう。
ハムっぽい女性を庇う白髪男性か、子供二人か。
大した時間もかけずあたしは結論を出して、窓枠に右足をかけた。
別に子供たちを見捨てた訳じゃない。あの二人はすぐに助けに行く。
どこに?? どうやって??
さぁ、そんなのクソ土方に任せるに決まってんじゃん。
ただ、さっきの白髪の人に、大切なモノを無くしたまま死んで欲しくなかっただけだ。
彼らを取り戻せるかは分かんないけど、生きてたらきっといいことあるって。
あたしが沖田さんに出会えたように。
ほっ、と軽く掛け声をかけて、あたしは両腕に体重をかける。
その勢いを殺さないまま左足も上げ、そのまま外へと飛び出した。
「……げ」
なんと、下はごみ捨て場だった。
ぼす、と音を立てて着地する。
失敗して、顔がごみに埋もれることとなる。
「あーもー、きったないなぁっ!!」
自棄気味に叫んで顔をあげると、すぐ側にいた人がビクリと肩を震わせた。
「……ん??」
きょとん、とした顔でそちらを見る。
和服を着て、刀を持った地球人が一人。
あたしと、さっきの白髪の人をずっと見比べていた。
あたしは頭を掻きながら刀を持ち直す。
「えーっと?? 刀を持ってるってことは、敵と見なしていいのかな??」
見た目はどう見ても地球人だが、どうせさっきの天人どもの仲間かそこらだろう。
両刃切天秤刀を構えるあたしを見て、相手は怯えながら口を開いた。
「ちょ、待ってください、
その刀……貴方……もしかして氷姫ですか??」
「………」
あたしは黙って相手を睨めつけた。
氷姫の名はわりと知られているが、氷姫が両刃切天秤刀を操ることを知っているのは、かつての同志だけだったからだ。
――言うなれば、こいつが穣夷志士だということだ。
「確かに、そう言った通り名で呼ばれてたことはあるけど……。
でも、だからそれがどうしたの??
今のあたしは穣夷志士じゃないんだけど」
「し、知ってます。
……えっと、あの、桂さんが氷姫を見つけたら連れてくるようにと……」
おどおどと、相手は言う。
「桂さん??」
誰だっけそれ。
聞いたことがある気もするが……思い出せない。
「えっと、あの……穣夷志士の……、
髪の長い、池田屋の時に会ったとかいう……」
「………」
そういやそんな人いたっけか。
記憶が曖昧すぎて朧げにしか思い出せないが。
あたしはクイと顎を上げ、相手を威圧する。
「……で?? その『勝田さん』のところに行ったら、」
「桂です」
「……桂さんのとこに行ったとして、あたしにとって何の得があるの??
盛大に歓迎して、御料理でも出してくれるわけ??
何の得もないっつんなら、あたしはついてかないよ。
今ここであんたを斬り殺して、屯所に戻ったっていいんだ」
じっくりと、じっとりと威圧する。
今あたしはきっととても冷たい表情をしているのだろう。
相手はあからさまにガクガクと震えながら、目を逸らす。
「そ、そちらの方の、手当、て……
それと、転生郷に関わ、ってる組織――『宇宙海賊春雨』の情報と、それを叩く、
て、手助けくらいはしてくれ、ますっ」
「――はぁ?? 組織を叩く手助け??
舐めんじゃないわよ。
そっちの目的にあたしを巻き込むな。
あたしはこの人と――この人の仲間が救えればなんでもいい」
どうせ組織など、いつかは潰れる。
あたしはさっきの子供たちを助けにいくだけだから、大した労力も必要としていない。
どうせあんな奴等、頭領以外は只のクズだ。三下、いや、それ以下なので瞬殺できる。
頭領とさえ戦わないようにしておけばあたし一人で事足りる。
だいたい何さ。
なんであたしが穣夷志士の味方をしなくちゃならない??
あたしの仕事は一般ピープルを護ることだ。今あたしの横で倒れている白髪の人とか。
「で、でもっ。転生郷でたくさんの人が人生を――」
「あたしに課せられた仕事は一般人を護るってことだからさ、
麻薬に手ェ出した犯罪者どもに興味はないんだよね」
ま、あたしも犯罪者だからあまり偉くは言えないけど。
だからさぁ、とあたしはにっこり笑う。
「貴方ももう、死んでください」
そしてそのまま刀を振り上げ――斬りかかった。
キィン、と金属のぶつかりあう音がして、あたしは目を見張る。
無論、人を斬った感覚など微塵も感じられなかった。
突然脇から出てきた人が、あたしの刀を止めていた。
綺麗な長い黒髪のせいで、性別の判断はできなかった。
――いや、こんなことが出来るのは男性だけだろう。
いきなり準備もなしに、『氷姫』の――こともあろうか『氷姫』のだよ??――真っ向から、
まともに受け止めることの出来る女性など存在しない。――しては、いけない。
その人は、呆然としているあたしを見ながら口を開く。
「まぁそういうな、。お前と争いたくはない。
――だが、俺の同志を傷つけるのなら話は別だ。正々堂々と、返り討ちにしてくれよう」
「………あは」
あはははは、とあたしは乾いた笑い声をあげて刀を置く。
あはは、無理無理、勝てっこない。
たぶん沖田さんより強いよ、この人。
諦めて両手をあげてホールドアップ。
「あはは。ごめんなさいあたしの負けです。
穣夷志士見たら斬る癖がついちゃってて」
男性は安心したように刀を鞘に収める。
そして静かに目を伏せた。
「そうか。無理もない。最愛の肉親を殺されたんだものな……」
「そうなんですよー」
にこやかに返す。てかなんで知ってんだ。
それにあてられたのか、相手もにこやかに笑ってあたしに手をさしのべた。
「よしそれでは、銀時と共に俺のアジトまで行こう。早く手当てをしないとそのアホの命が危
ない」
「はい。でもその前に――」
あたしはその手をとり、そして生じた疑問を全てぶつけた。
「銀時とはこの白髪さんですか??
そのアホもでしょうか??
そして……、これが一番重要です」
「……貴方、誰ですか??」
相手が誰だかわからない時は
とりあえず話を合わせとけ
I'm gonna 導く明日
only you その愛が
心を呼ぶ paradise
baby listen to my heart前に行くdestiny
その向こうに 衝動のように
現れる日 地上に way to ZION
険しくても 傷ついても
僕らの道 きっと 巡り会える
I gotta 開かれたドア
このchance 今 I get up
確かにある paradise
あなたをすぐに連れて
I'm gonna 導く明日
only you その愛が
心を呼ぶ paradise
baby listen to my heart前に行くdestiny
東方神起 ZION より
Next
あとがき
ちょっとは桂さんに慣れただろうか
相変わらずぐだぐだですみません
今回は長くなりそうなんで2つに分けました
ムヒョにはまってしまったので
続きいつできるかは分かりません((オイ
08月04日 桃