誰だって変装したら気が大きくなる

、銀時が起きたら呼んでくれ」

そう言われていたので、寝ている白髪の人の横にスタンバっていると、
突然白髪の人が体を起こした。

焦点のあっていない目で、あたしを見る。

「…あ、……おはようございます」

「………」

返事がないままにガラッと襖が開いて、桂さんとかいう人が入ってきた。

「ガラにもなくうなされていたようだな…。昔の夢でも見たか??」

桂さんを見て、白髪の人は怪訝げに眉を寄せる。

「ヅラ?? なんでてめーが…」

途中まで言ってから、急に目を見開き、立ち上がろうとする。
途端に激痛が襲ったらしく、白髪さんは前のめりにぶっ倒れた。

それを助け起こし、座らせる。

二人が会話を始めて、手持ち無沙汰なあたしはケータイをいじり始めた。

あ、メール来てる。
しかも沖田さんからだ。
着信は12分前。気が付かなかった。

『今どこでィ』

「………」

簡潔すぎるメールだった。
カチカチとボタンを押し、返信する。

『怪我人の治療中ですよ』

すぐに返信が来た。

『場所はどこでェ
すぐに向かいやす』

『特に何もないので
大丈夫ですよ』

『とっとと教えろっつってんでィ』

「………」

怒っているようだ。

どうしようか悩んで眉をあげたとき、桂さんと白髪さんが立ち上がっていることに気が付いた。

「……どこかに行くんですか??」

「春雨のアジトに行ってくる」

「春雨?? 鍋パーティでもするんですか??」

首をかしげると、桂さんが小さく口端をあげて笑った。

「……いや。鍋パーティを邪魔しに行ってくるんだ」

「白い粉の入った鍋パーティか?? 嫌なもんだな」

「あ、だったらあたしも連れて行ってください」

片手をあげて軽く言うと、白髪の人がとてつもなく嫌そうな顔をした。

なにさ、どうせガキだからって甘く見てんでしょうに。

「やめとけガキ、お前が入ると、コスプレの衣装が足りなくなっちまう」

「……は??」

思わず数回瞬きした。

「コスプレ??」

「あぁ。二人で海賊のコスプレをするんだ」

「………」

いや、それ……あってもなくても、どっちでもよくね??





「で、ホントにこれでいいのかよ??
俺的にはもうちょっと腹だしてもいいと思うんだが……」

「セクハラですか変態。
逮捕しますよ」

長めの丈のTシャツをへその少し下くらいまでたくしあげ、脇で結ぶ。
ボトムスは七分丈のダメージジーンズで、腰にはバンダナ。
ついでに頭にもバンダナを巻いた、なんちゃって海賊コスのあたしは、両刃切天秤刀を坂田さんにつきつけた。

「16歳の女子に何を言うておる、銀時。
見えるか見えないかくらいがかえってムラムラしていいも――げふっ」

「お前も変態じゃねェか!!」

顔面に蹴りをいれる坂田さん。

鼻血を流しながら桂さんは飄々と言った。

「俺はお前の気持ちを代弁したまでだが」

「だから俺はもうちょっと腹だした方がいいっつってんだろーがアァァッ!!
どこが俺の気持ちなんだよッ!!」

「うるさいです変態ども。
あんたらに何言われようが、
あたしはこれ以上
スタイル変えませんから、ご心配なく」

「なにっ??」

何がなにっ?? だよ。

あたしは半眼のまま両刃切天秤刀を背中に背負い、前方を見据える。

「ほら、早くしないとお仲間さんたちが大変なんじゃないですか??
早くその、春雨とかのアジトに向かわないと…」

「――残念ながら、それは叶わないな」

突如聞こえた声に、あたしたち三人は飛びすさる。

「お前たちはここで俺に殺されるからだ」

飛んだ方向と逆の方向――つまりあたしたちの前方に、刀を構え、不気味に笑った男がいた。

年齢は20そこそこで、姿勢や息遣い、隙のなさなどから、
かなりの使い手であることが窺える。

桂さんが小さく舌打ちをした。

「春雨の者か…??」

そう問いかけるが、その返答は予想に反するものだった。

「いや、違う。
俺は一家揃って穣夷志士だ。
……だが、五年前、そこにいる『氷姫』に親父を殺された。
おい、氷姫!! 我が父、望月泰平の名、忘れたとは言わせないぞ!!」

そういってこちらを睨む。

……いや、あたしがそんなもん覚えてる訳ねェだろ。

は記憶力が皆無だからな。銀時と同じで」

「何いってんだ、俺の記憶力なめんなよ。俺は今まで食べたパフェ、全部思い出せるぞ多分」

「そういうのは記憶力とは言わん。執着だ」

「執着だァ?? そんな言葉でくくんじゃねェ。俺の甘いものへの愛はなァ…」

「すいませんオチなさそうなんで終わってください」

ばっさり切り捨て、あたしは敵と対峙する。

相手はくつくつと笑い声をたて、歪に口端をあげた。

「いいねぇ、その顔……。その凛々しい表情のまま、親父を殺したのか??
氷王も氷姫も、表情を変えないことで有名だったしなァ」

「――黙れ」

あたしは相手を睨み付ける。

その名前を口にするな。
あいつをあたしと一緒にするな。

黙っていた桂さんが、不意に口を開いた。

「――待て。が元穣夷志士で、氷姫だったということは予想していたが……。
五年前ということは、当時はまだ11歳のはず。
まさか……」

「そう、そのまさかですよ」

あたしは静かに言った。

「あたしが初めて人を斬ったのは9つの時です」

「………」

桂さんが目を伏せ、なぜか坂田さんがやけに真剣な顔であたしの頭を撫でた。

「穣夷志士の中にも対立はあるだろ??
桂小太郎、お前ならわかるはずだ。

親父はそれで氷王を敵にまわしたのさ。
だから…斬られた」

静かに男は呟き……、ついと顔をあげて笑った。

「だから俺は復讐を誓って、修行したんだよ!!

いっとくがな、氷姫!!
俺は親父の500倍強い!!
つまりだ!!
お前ら三人を、ここで皆殺しにしてやれるんだ!!」

「………チッ」

桂さんがまた舌打ちをした。

「ことは一刻を争うと言うのに……」

ほんとだよ。
空気読めよクソヤローが。

あたしは『氷姫』の表情になって、桂さんらに薄く笑いかける。

両刃切天秤刀を背からおろし、構えて。

「先行っててください、桂さん。
こいつはあたしが食い止めます。

元はと言えばあたしの相手だし、あたしが斬るのは必然ですから」

というか、桂さんたちも殺そうとするのが意味不明。
頭大丈夫かこいつ、てかてめー程度にこの二人が斬れるわけねェだろカス。

途端に桂さんが戸惑った表情になった。

「しかし、お前一人で大丈夫か??」

「大丈夫ですよー」

「しかし――」

「よし行くぞヅラ」

あっさり歩き出す坂田さん。

「ヅラじゃない桂だ!!
おい銀時!! お前女子一人に無理を強いるのか!?」

「無理?? 誰が強いてんだそんなモン」

そういって桂さんの肩を掴み、無理矢理歩き出す。

「女がやるっつったらやるんだよ。

いいかヅラ、女には二種類ある。

ひとつは天使に育てられた、それはそれは綺麗で可憐な人達だ。
例えていえば結野アナだな。

だが、もうひとつはゴリラに育てられた奴らで、一度言い出したらききやしねェ。
おまけに凶暴なもんだから誰も奴らに逆らえねェんだ。

そんでこのガキは後者だ、ゴリラだ。
だから何言っても――」

「誰がゴリラですか」

……全く。

あたしは呆れて、笑い混じりのため息をついた。

女を理解してるのかしてないのか、どっちなんだろうか。
いずれにしても、面白い人だ。

「――さて」

あたしは前に向き直って、刀を握り直す。
遠ざかりながら坂田さんが背後で言った。

「死ぬんじゃねェぞ」

もちろんですよ。
例え勝てなくとも、生き恥じさらして逃げとおします。
じゃないと、沖田さんに殺される気がする。

男が不遜に笑って口を開いた。

「いいのかよぉ?? 行かせちまって。
一人で俺を相手にするなんて、無謀にも程があるぜ」

「大丈夫、謀なんて、はなからないから」

あたしも笑いかえす。
そして――相手は突然、斬りかかってきた。

すんでのところで剣撃を避け、あたしは冷や汗がにじむのを感じた。

……想像以上に速い。
んー、これマジで逃亡が最善手なんじゃない??

続けてやってくる刃を、全てギリギリのところで交わす。

「しかしまぁ……、氷姫が生きていると聞いたときは、嬉しすぎて泣きそうだったぜ」

楽しそうに笑って、そいつは言う。
自分が絶対的に優位なのを感じて、饒舌が滑りよくなっている。

「真選組の沖田総悟に斬られたって、もっぱらの噂だったんだが……。
はは、そんときは俺ァ、沖田を殺そうとおもっちまったね」

「……あは」

あたしは思わずふきだした。
相手が眉をあげて、あたしを見る。
動きが一瞬――止まった。

あたしはその瞬間に斬りかかり、切っ先が相手の肩を抉った。

「……なっ」

息を呑む男。
そいつに、あたしは作り笑いを浮かべて言った。

「貴方頭大丈夫ですか??
貴方程度に沖田さんが殺せるはずないじゃないですか。
身の程ってのを知りなさい」

ドクドクと血の噴き出す肩を押さえて、相手は姿勢を立て直す。
表情は憎悪に満ちていて、発される殺気も先程までとは比べものにならない。

「俺にも勝てねェクソガキが、よく言うよ……。

いいか氷姫、教えておいてやる。
お前は俺に負ける。――それこそぼろ雑巾のようにな」

「ふーんそっか。
いいからとっとと死ね、クソジジイ」

ぶちぃ、と何かが弾ける音がした気がする。
途端に相手は飛びあがり、上からあたしに斬りかかった。

「死ねエエエェェェッ!!」

「……」

あたしは静かに刀を手放し、目を閉じる。

そして瞬時にポケットに手を伸ばし、拳銃を取り出して撃鉄を起こし――、

撃った。

ぱぁん、という音と共に、弾丸が宙にいる男の脇腹を貫く。
血が噴き出し、為す術もなく男は地面に叩きつけられた。

「く、そ……、てめ、」

「汚いとか言わないでね??
これは決闘じゃないから、飛び道具もありってことで……」

別にあんたに勝ったって、あたしに得はないけれど。

少し距離を置いてから、手錠をかけようとして、それがないことに気付く。
桂さんとこに置いてきたんだった…。

仕方ない、殴るか何かして気絶させ――

ぱぁん、

と二度目の銃声。

そしてほぼ同時に、肩に激痛が走る。

「……痛っ」

左肩から流れだす血。
それを見て、地面に倒れながら拳銃を構えた男が醜く笑った。

「へへ……。俺が、銃を、持ってないとでも思ったのか??」

「ち、くしょ……」

愚直だったか。

悪態をつくあたしの体を、第二、第三の弾が抉る。
急所には当たっていない。
だけど……、出血量が多すぎる。

誰かに助けを求めようにも、ここは普段人通りの全くない場所だ。
期待はできない。

次第に意識がとおのく。

死ぬの?? ここで??
こんなところで??

『死ぬんじゃねェぞ』

ごめんなさい咲田さん(違ったっけ??)、死んじゃうみたい。

桂さん、もうちょっと貴方と話がしたかったよ。

姉さん、早いけど、すぐにそっちに行きそうだよ。

ごめんなさい沖田さん、何から言ったらいいのかわからないけど……、とりあえず――、

「何やってんでィ、てめェは」

「……え??」

聞き覚えのある声が、手放しかけた意識を揺さぶる。
うっすらと目を開けると、拳銃を掴んだまま息絶えている男と、こちらに向かって歩いてくる沖田さんが見えた。

「――おきたさ」

口を開くと同時に、伸びてきた手に肩を支えられる。

そのまま、抱きすくめられた。
顔を吐息がかかるまで近づけられる。

「喋らなくていい。後で仕置きも含めて、みっちり絞めてやらァ」

「でも、あたしもう死……」

「死なせねェ」

強く、断言する。
いつになく真剣な表情で、強く。

自身に言い聞かせるかのように言った。

「死なせねェよ、絶対。だから安心しろィ。
安心して……、目覚めた時にする言い訳でも考えときなせェ」

まぁ生半可な言い訳じゃあ許しやせんが、
などと黒い笑みを見せて、沖田さんはあたしのまぶたを指で優しく落とす。

そしてあたしは……、今度こそ意識を完全に手放した。

誰だって変装すると気が大きくなる


どんな日も ずっと君思うよ... 心から君を
もう二度と your heart 離さないから

君が泣けば 僕は行くよ
君をいつも守りたいんだよ

君が望むなら 全てを尽くして
君の描く未来 永遠の夢を叶えたい I wish!

逢いたくて ずっと君思うよ... 心から君を
何度でも to heart 贈る smile for you

悲しくても 嬉しくても
君のそばで笑いたいんだよ

with all my heart
find me, and I'll be there for you

東方神起 With all my heart~君が踊る、夏~ より

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あとがき
付き合ってもいないのに
その密着よう(どの?)
はなんだろうか、
戦闘シーンを書くのが
くそ下手です
誠に申し訳ございません
09月14日 桃